そん・みひょん/「丸の内の森レディースクリニック」院長。2010年に著書『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』が大ヒット。2児の母(撮影/鈴木芳果)
そん・みひょん/「丸の内の森レディースクリニック」院長。2010年に著書『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』が大ヒット。2児の母(撮影/鈴木芳果)

 公文書の改竄やイラク日報隠蔽など、政界は自由と平等の理念を掲げる民主主義が危機的な状況だ。他方、医療分野では自由に等しく情報を入手できるが、根拠のない情報が氾濫し民主主義的な生き方が危ぶまれているという。産婦人科医・性科学者の宋美玄さんが語る。

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「自由と平等を保障する生き方」が民主主義。これを医療に当てはめて考えると、患者さんは今、医療に関する様々な情報を自由に集め、複数の選択肢がある場合、その中から患者さん本人が望むものを選べる時代です。ところが、数多く出回るトンデモ医療情報に惑わされている人も少なくありません。

 本当に正しい医療にたどり着くにはどうすればいいのか? よくされる質問ですが、情報をシロかクロか簡単に見極める魔法はありません。基礎的な知識を持つしかない。

 高校までで習うレベルの生物や化学の知識でも、それを元に考えれば、「あり得ない」とわかることはたくさんあります。たとえば「コラーゲンを食べると肌がピチピチになる」。消化や吸収、肌の代謝などの基礎知識があれば、「食べたコラーゲンが本当に肌にくるの?」といった疑問が生じるでしょう。

「月経は女の証し」「セックスをすれば女性ホルモンが増えて奇麗になる」……。これらもよく見聞きしますが、月経は妊娠の準備で分厚くなった子宮内膜がはがれたもので「女の証し」とは別問題ですし、セックスで女性ホルモンは増えません。

 どこかから得た情報を一方的に信用するのは危険です。エビデンス(証拠)に基づいた多岐にわたる医療情報を発信しているジャーナリストの知人がいますが、彼らは多方面から情報を検討している。下手をすれば医者より詳しいほどです。

 医療を一方的に信じるのも、過剰に不信感を抱くのも、どちらも違います。医療は手段でしかなく、「これさえしていればOK」「薬さえ飲んだら治る」といったものではありません。基礎知識を持ってメリット、デメリットを冷静に判断した上で、自分に合うものを選ぶべきです。

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