平成生まれの中川龍太郎監督が作った映画「四月の永い夢」が公開される。この世代が感じる、微妙で繊細な感覚をリアルに表現した。制作の過程でこだわったのは声。その思いを監督が語った。
昨年6月に行われた第39回モスクワ国際映画祭で、国際映画批評家連盟賞とロシア映画批評家連盟特別表彰に輝いた映画「四月の永い夢」が5月12日から公開される。
主人公は3年前に恋人を亡くして教師の職を辞し、今は街のそば屋でアルバイトをしながら静かに暮らす滝本初海(朝倉あき)。そんな彼女にある日、亡くなった恋人の母親から1通の手紙が届く。そこには彼女に宛てた恋人からの最後の手紙が同封されていた──。
監督・脚本を手がけたのは中川龍太郎さん(28)。映画を独学で学び、初監督作品「Calling」(2012年)でボストン国際映画祭最優秀撮影賞、2作目の「雨粒の小さな歴史」(12年)でニューヨーク市国際映画祭に入選するなど、着実に力をつけてきた注目の映画監督だ。
前作「走れ、絶望に追いつかれない速さで」(15年)は、親友の自死をどのように受け止めていくかを監督自身の体験をもとに描いた。本作ではさらに視野を広げ、親友の死をその恋人の視点から描く。
一見静かに暮らす初海。だが次第に、彼女の停滞する人生は恋人の死による悲しみだけが原因なのかという疑念がわいてくる。実は他に秘密があるのではないか。初海の向こうにある何かを見つけようと、彼女から目が離せなくなる。
「何かが起きそうで起きない。でも、実は起きているという気配を撮りたかった」
と話す中川監督のもくろみは成功している。
映画は憂いのある声を持つ朝倉ありきで作られた。
「親友が亡くなった後に、スタジオジブリの『かぐや姫の物語』が公開されました。何を見ても自分の中に入ってこなくなっていた中、ヒロイン役の朝倉さんの声だけが、不思議と自然に心に染み入ってきました」