ふづき・ゆみ◆1991年生まれ。詩人。高校3年のときに発表した第1詩集『適切な世界の適切ならざる私』で中原中也賞を受賞。著書にエッセー集『洗礼ダイアリー』など(写真:岸本絢)
ふづき・ゆみ◆1991年生まれ。詩人。高校3年のときに発表した第1詩集『適切な世界の適切ならざる私』で中原中也賞を受賞。著書にエッセー集『洗礼ダイアリー』など(写真:岸本絢)

 天才詩人ともてはやされた時期も過ぎ、気がつけば等身大の臆病な自分がポツリ。人生経験の少ない彼女は、街に出て、これまで触れたことのない世間の荒波に飛び込む……。『臆病な詩人、街へ出る。』は、18歳で東京に出てきた詩人・文月悠光さんの新著だ。文月さんに、同著に寄せる思いを聞いた。

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 かわいい子には旅をさせよ。そんな故事とは裏腹に、かわいいなどとは到底思えない自分自身を、街に向かって放り出すエッセー集である。生まれて初めて八百屋に行き、エステやストリップ劇場にも行った。アイドルのオーディションにも出る。好奇心旺盛で行動的だからではない。逆だ。なじみの生存圏内から引きはがされ、外部にさらされたらどうなるのか。何を感じ、考え、どう書くのか。いわば実験台である。

「連載当初は、書くために街へ出ていくようなところがあったと思います。でも途中から状況が変わり、思いがけない一言を投げられた時に自分がどう反応するかなど、内側の怒りや疑問を言葉で掘り起こすようになりました」

 街へ出たことで得た経験の数々は、当初抱いていたイメージとは違った場所に連れていってくれたようだ。

「臆病な自分が劇的に変化するほうが盛り上がるだろうし、私もそのほうが人間的にすばらしいと思っていたフシがあります。でも、当然ですが人間は多面的で、臆病さは自分の一面に過ぎないこともわかりました。それと、思いがけず『わかる!』と共感を示してくれる方が多く、励まされました。完璧でしっかりとした大人の方にも自分と似た臆病さがあるのだなと。お寄せいただいた感想はどれも豊かで輝いて見えます」

 文月さんは詩人だ。そう、詩人。この国ではいまだに、詩人と言われてポカンとしてしまう人が大半であり、おまけに10代でデビューした文月さんには「JK詩人」はじめ、厄介な形容が付いて回った。

「現代に詩人はいないと思っている人が多いのか、『生きてる詩人に初めて会いましたよ!』って何度言われたことか(笑)」

 そんなリテラシーの低い(?)見られ方も楽しめるようになってきたという。

「どんなところから興味を持ってもらってもかまいません。詩人には越境性があるので、散文や広告のコピーの形で言葉を寄せることも多い。その根源にあるのは詩です。今は短歌や俳句など、定型があって挑戦しやすい短詩型の詩が人気を集めています。一方、自由詩には定型がなく、それは自由さでもあり、壁でもあります。でも私は、答えをすぐに求められる時代に、わからないまま読み続け、書き続けなければならない詩の魅力は絶対にあると思うんです。私が今後何を書くとしても、詩を捨てることはありません」

(ライター・北條一浩)

AERA 2018年4月16日号