空前の肉ブームが巻き起こっている今、様々な肉料理店が集結する東京ではどんな店が人気なのか。話題の店を取材した。
近年、一気に拡大傾向にあるのが肉割烹というジャンル。およそ牛も調理の仕方でヘルシーにという傾向の象徴だろう。中でも食通の間で東京随一と注目されるのが人形町の「おにく 花柳」。代表の片柳遥さんは有名大学を中退してまで料理の世界にのめり込み、アルバイトのホテルスタッフを皮切りに4軒ほど一流の食の現場を渡り歩いた。肉には一貫してこだわり、同店も最初は焼き肉屋からスタートしたのだという。
「肉を客観的に楽しむには焼き肉。しかし、化学調味料を使わないと、どうしてもナムルやキムチなど本場の味が出せない。そう気づいて、今の形態に変えたんです」(片柳さん)
以来、和の調理経験を注ぎ込み、『ミシュランガイド東京』に掲載(星一つ)されるほどの有名店となる。そんな片柳さんの肉の仕入れは一風変わっている。
「市場ではあえて品種や産地名を伏せてもらい、肉と対面します。ブランドに左右されず、肉質だけで判断したいんです。たまに見た目に騙されることもありますが、そこは腕でなんとかカバーします」
と片柳さんは笑うが、その表情に職人の自負が同時にのぞいた。11品目が並ぶ月替わりコースのダイジェストを味わったが、「早掘りの筍の和牛ランプ巻き 木の芽焼き」は春の香りが口いっぱいに広がる妙味だった。
リーズナブルに和牛赤身の魅力を満喫できるのが人形町などに展開する「にくがとう」。赤身専門を謳った最初で、現状は唯一の焼き肉店だ。オーナーの三浦剛さんは元ウェブデザイナーだが、肉好きが高じて事業に乗り出した。部位ごとの産地にこだわり、自ら牛の飼育も委託。三田の新店の店名もその土佐あかうしのトレーサビリティーナンバーに由来する。
「いろいろ食べ歩き、赤身が好きだと思ったんです。肉コンテンツは発想が自由だし、感動が大事という点ではウェブと一緒。肉質を決めるのは血統と餌と生産者ですが、地元の山形の酒田でも3軒しか酪農家が残っていない。そこで自分でも庄内牛を育てています」(三浦さん)
去勢したホルスタイン種の庄内牛は飼育期間が長いぶん、「生きながら熟成」させることになり、あっさりしながらも濃醇な味わいが楽しめる。同店の食卓に並ぶ日も近いとか。
赤身でも和牛には適度なサシが入るのだが、すき焼き風のタレに漬け込み、さっと炙った肉を茶卵にくぐらせ食す、「イチボの1.5秒焼き」はその旨みが堪能できる逸品だ。(ジャーナリスト・鈴木隆祐)
※AERA 2018年4月16日号より抜粋