都内の通勤・通学の足となって活躍した私鉄車両の第2の人生はなんと図書館。地元の子どもたちに愛され、半世紀を迎えたという。
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「また借りてくださいね」
貸し出しカウンターの女性が女児に声をかける一方で、車両先頭の運転席では男児がハンドルをいじっている。
東京都西部に位置する東村山市の団地の公園の一角に、黄色い車体が輝く西武線の車両が一両鎮座する。日本でも珍しい鉄道車両を利用した「くめがわ電車図書館」。このほど50周年を迎えた。運営は近所の主婦たちのボランティアが頼りだ。
設立当時は市立図書館がなく、あったのは児童書を多く持つ家が開いた「家庭文庫」だけ。そこに団地の有力者が廃車両の話を持ち込み、家庭文庫をやっていた主婦が代表になって始めたという。それから半世紀。今の車両は2代目で蔵書は約5千冊。絵本が6割、残りは幼年童話だ。“館内”には幼児から小学3年生ぐらいの姿が目立つ。
大人たちもひきつけている。私設応援団団長の松原久寿さんは、50周年を前に、汚れた車体の一斉清掃をSNSで呼びかけた。すると遠くは足立区、世田谷区から20人ほどが集結。屋根に積もった落ち葉を落とし、窓ガラスや車体に雑巾をかけた。錆びた所は塗装しワックスもかけた。松原さんは言う。
「ファンタジーさがある。清掃は4回目。修理もやります。鉄道ファンでも触れない所に触れるので、発見もある」
団地内に住む小学3年の前川美紗ちゃんと橋元なつきちゃんは電車図書館に2週間に1度は来る。「面白そうだと思う本は全部読む。恐竜や偉人伝のモーツァルトが好き」「物語が好き。かいけつゾロリが好き」と話し、3冊ずつ借りて帰った。
子どもは本を広げたり引っ張ったりするので、人気の絵本や電車関連の本はボロボロ。それでも「ボロボロになるまで読まれるのは幸せなことです」と2014年から代表を務める小椋裕子さんは目を細めている。