東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン代表。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数
倒閣運動では森友事件の問題解決にならない(※写真はイメージ)
批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。
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森友学園問題が新展開を迎えた。財務省が国会に提出した14の文書が修正され、首相夫人や与党政治家の名前が消されていたのである。
筆者はある時期から森友問題に関心を失っていた。1年前に問題が報じられ始めたとき、疑惑の焦点は、政権が国有地払い下げに違法な介入を行ったかどうかにあった。しかし違法性は明らかにならなかった。にもかかわらず「忖度(そんたく)」
に拘る野党のメディア戦略は、大衆の反安倍感情に依存したポピュリズムだと感じていたのである。
しかしここにきて、問題の性格はまったく変わってしまった。政府が国会に偽造した文書を提出するということは、立法府による行政府の監視が機能しないこと、つまり三権分立が機能しないことを意味している。
この問題の深刻さは、法人への便宜供与といった疑惑をはるかに超えている。修正内容は軽微との声も聞こえるが、そういう問題ではない。公文書の事後修正が許されるようでは、日本は国家として崩壊する。この問題に対しては、親安倍か反安倍かの対立を超え連帯して事実解明にあたるべきである。政権の指示が認められるようであれば、内閣総辞職もやむをえまい。
ところで今回の事件でもうひとつ驚いたのは、これほど明確な改竄であっても、改竄者を刑事罰に問えないかもしれないという現実である。毎日新聞3月13日付記事によると、作成者の同意のもとの改竄は公文書偽造や変造罪にあたらず、原本が残っているので公用文書毀棄(きき)罪にも問えない。内容の変更が軽微なので、虚偽公文書作成罪の適用もむずかしいという。これは法の不備ではないか。
世論の関心はいま首相の責任問題に向かっている。しかし首相辞職は解決ではない。たとえ政権の指示があったとしても犯罪には手を染めない、その最低限の遵法精神がなければ問題は繰り返される。
シッポ切りがまずいのは当然だが、アタマだけすげ替えるのも意味がない。いつどこでだれが文書を修正したのか、すべてを明らかにして、はじめて組織は自浄作用を取り戻す。この事件を倒閣運動で終わらせてはならない。
※AERA 2018年3月26日号