政府与党が働き方改革関連法案を巡るデータ問題でつまずくなか、一冊の本が人事関係者などの注目を集めている。タイトルは『「同一労働同一賃金」のすべて』(有斐閣)。著者は東京大学社会科学研究所の水町勇一郎教授だ(労働法学)。働き方改革の看板政策「同一労働同一賃金」の理論的支柱として知られる。
【図】正社員と非正社員の待遇で違ってはいけないものといいもの
改革によって暮らしはとどう変わるのか。水町教授に聞いた。
* * *
――著書では、手当や賞与など、待遇ごとの具体的な判断まで説明されています。
「待遇」には教育訓練や福利厚生なども含まれます。現在は「正規労働者」とパート・有期労働者や派遣労働者などの「非正規労働者」との間に待遇差がある会社が多い。でも、今回の改正で理由のない待遇差は認められなくなります。安倍総理も「非正規という言葉を一掃する」と繰り返しています。短時間などの働き方がなくなるわけではありませんが、非正規は「安い」労働力ではなくなります。
――正規と非正規の仕事内容を明確に分け「同一」と見なされないようにすることで、法の適用を逃れようとする企業も出てくるのではないでしょうか。
職務内容に差をつけることはできますが、その違いに応じた均衡を確保しなければなりません。例えば職務に関連する基本給の場合、正規の仕事の難しさが10で、非正規の仕事が8なら、その違いに応じた賃金を支払う必要があります。
職務分離で逃れられると誤解する人が多いのですが、職務内容に関連しない手当や賞与では、職務が違っても差をつける理由にはなりません。そもそも、今の複雑化した現場では職務をきれいに分けて別々に行わせること自体難しい。職務分離はむしろコストがかかり、現場の混乱を招きかねません。
――導入後も様子見の立場をとる企業もあるでしょう。
強制力をもった法律なので、覚悟を決めて対応してもらう必要があります。1993年のパートタイム労働法の制定以降、正規と非正規の格差是正のための法改正が行われてきましたが、条文が抽象的で、裁判所の判断も分かれています。