「前髪の長さはどうしますか?」。次の瞬間、機器から明瞭な英語音声が流れてきた。

「What would you do with the length of the bangs?」

 意味を理解した客の女性はにこやかに手元のヘアカタログをめくり、イメージに近い写真を指さし始めた。

 ポケトークは、従来難しかった正確な音声認識が可能。さらにクラウド上で言語ごとに最新・最適な翻訳エンジンを選択し、50言語以上で双方向通訳をしてくれる。お客さんの母語で話してもらって、日本語訳を聞くこともできるし、画面には文字も表示されるので、目で見て確認もできる。

 髪形に関するオーダーは、ただでさえ言語化するのが難しい。満足したのか気に入らなかったのか、海外のお客さんは評価もはっきりしている。事前のカウンセリングで、もう少しニュアンスを共有できていれば避けられたかもしれないクレームも、これまでにはあった。

「レイヤーの幅、グラデーションの幅、カールのかかり具合、トリートメントのしっとり具合。そういった細かいニュアンスを英語で伝えるのは難しかった。ですが、これからはポケトークに助けてもらう機会が増えそうです」

 栗原さんはそう期待する。(編集部・石臥薫子、高橋有紀)

AERA 2018年3月5日号より抜粋