

1980年代から90年代前半にかけて活躍し、時代を象徴するアーティストと言われた漫画家がいる。岡崎京子だ。交通事故に倒れ、作品は途絶えたが、いまも人々の心をとらえ続けている。ノンフィクション作家・中原一歩氏が支持される理由を読み読み解いた。
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岡崎京子という漫画家をご存じだろうか?
1985年に『バージン』でデビュー。若者のむきだしの欲望、孤独、憂鬱(ゆううつ)などをテーマに作家性の高い漫画を数多く発表し、注目された。しかし、人気絶頂だった96年5月、交通事故に遭遇。重傷を負い、事実上、作家生命を絶たれてしまった。
以後20年、新作こそ発表されていないが、多くの作品集が刊行され、『pink』『東京ガールズブラボー』『ヘルタースケルター』などの代表作は、時代と世代を超えて読み継がれている。『ヘルタースケルター』は、蜷川実花が監督、沢尻エリカが主演して、2012年に映画化もされた。
なぜ、20年以上も前に描かれた岡崎作品が、私たちの心に響くのか。
現在も、彼女の同名漫画が原作の映画「リバーズ・エッジ」が公開中。行定(ゆきさだ)勲が監督し、二階堂ふみが主演。事故以前から岡崎と親交が深く、いまも交流が続く小沢健二が主題歌を提供している。伝説的名作との呼び声が高い作品だ。
自由に生きたいと願う女子高生の若草ハルナが主人公。彼氏はドラッグとセックスに溺れゲイの同級生をいじめるのだが、ある日、その同級生を助けたことから、ハルナは夜の河原へと誘われる。目にしたのは放置された人間の死体。死体の存在を共有したことで、ハルナ、ゲイの同級生、レズビアンでモデルの後輩の3人が、恋愛には決して発展しない特異な友情で結ばれていく──。
雑誌「CUTiE」で93年から94年にかけて連載されたこの作品の冒頭は、あまりに有名だ。
あたし達の住んでいる街には
河が流れていて
それはもう河口にほど近く
広く、ゆっくりよどみ、臭い
河原のある地上げされたままの場所には
セイダカアワダチソウが
おいしげっていて
よくネコの死骸が転がっていたりする