「どの菌が多いか、パターンが大まかに三つぐらいに分類できています。一方で腸内の菌の群集構造を『マイクロバイオーム』と呼びますが、これが非常に個人差が大きい。通常、体温の平熱は36度前後。ところが『平マイクロバイオーム』は人によって1度だったり100度だったりと全然違う。皆それぞれに安定して、そこからのブレが病気のリスクを上げるんです」

 と言う山田氏の分析の手法は、採取した便の中の菌を壊し、DNAを調べることで「どういう菌や遺伝子が腸内に存在するか」をプロファイルすること。中でも大腸がんや病気との関連性を長く研究してきた。

「今はまだ、遺伝子検査で大腸菌とビフィズス菌がこれぐらいありました、の後に、それがどういう意味を持つのかが分かっていない。ピロリ菌=胃がんの原因のように、特定のどの菌が大腸がんを引き起こすのか、などを明確にさせていきたい。中長期的には、個々人の腸内環境プロファイルに対して、食品だったりサプリメントだったり、薬だったり、具体的な解決策を提供したいですね」

 国立研究開発法人理化学研究所(理研)に特別研究室を持つ辨野義己農学博士(69)は、11年からの2年間、地道に講演先などで協力を呼びかけ、現代の日本人計3220人から便の提供と、計143項目に及ぶ生活習慣のアンケートを実施。腸内常在菌を八つのパターンに分類した。これらの分析と、奄美群島や他の長寿地域で集めたサンプルなどから、健康長寿と関係の深い腸内細菌のグループも見つけ出したという。

「長寿地域で特徴的に検出されたのは、大便菌とラクノスピラという酪酸産生菌の一種。酪酸はがん細胞の抑制や腸粘膜の正常化による免疫向上など様々な健康効果があり、食物繊維を利用して作られる」(辨野博士)

 野菜中心の食生活と腸内細菌の関係が、新たな視点で関連づけられたのだ。さらに加齢で激減するビフィズス菌をみても、この地域のお年寄りは減少傾向が非常に小さかった、という。

 辨野博士は、大便菌、ラクノスピラ、ビフィズス菌の三つを「長寿菌」と命名。全国の地方紙に掲載した計20回の連載記事で呼びかけたところ反響が大きく、昨夏からの半年間だけでなんと1万人超の被験者の応募があった。辨野博士も「休む暇がない」と嬉しい悲鳴だ。さて、次なる展開も描いている。

「今年の夏までに整理して、腸内細菌の『県民ショー』をやりたい。さらに、未分類の腸内細菌を見つけて、新規な菌を100以上に増やしたい。そもそも千種類超のうち、6割はまだ未知の菌ですから」

(編集部・大平誠)

※AERA 2018年1月29日号より抜粋