こうした断片だけを切り出すと、銀行業界のフィンテック戦略に悲観が漂うかもしれない。しかし、そうとも限らない。その一例が、三井住友FGが急発進させている個人分野の業務改革である。
三井住友は全国で400を超える銀行店舗を大きく変えつつある。そのポイントは、フィンテックと同義語といえるデジタイゼーション(電子化)である。営業店の定番、顧客カウンターとその後方に広がる事務スペースは消えて、店内は広い顧客フロアで占められる。空港にある航空会社のチェックインカウンターを思い描いてもらえばいい。送金や引き落としなど、要件に応じて顧客が口座番号、氏名、金額を記入する用紙はまったくない。印鑑も朱肉を使わず、専用パネルにタッチするだけ。これらを支えているのは、処理データや印鑑の陰影データを直接、集約した事務センターに送信するIT技術だ。
なぜ、ここまで営業店の業務を変えるのか。答えは明白だ。効率化で得られる業務余力のすべてを顧客サービスの質的向上に振り向けないと勝てない時代になったからだ。
「2017年のモデルチェンジでこの先15年は勝てるという姿にする」
三井住友の幹部がこう言い切るように、フィンテック戦略でも結局、顧客の支持を獲得する本質的な闘いに目覚めるしかない。デジタル化で全体のコスト構造を軽量化することによって、フィンテックプレーヤーには期待できない対面ビジネスならではのサービスの質的な充実を実現する。それに挑まない無策の銀行からは、すでに埃をかぶり始めただろう人型ロボットすら、逃げ出す準備を真剣に始めるかもしれない。(金融ジャーナリスト・浪川攻)
※AERA 2018年1月22日号より抜粋