経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、日々の経済ニュースを鋭く分析します。
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先日、「過小評価」のお話をしましたが、2018年は、「価値の本質とは何か」というお話から始めたいと思います。
投資詐欺にしても、元本割れする投資信託の銀行による強引な窓口販売にしても、結局は我々がこの価値の本質(本源的価値)を見極められない、つまりだまされてしまうことに原因があるのです。
ちょうど昨年末、上野動物園で赤ちゃんパンダのシャンシャンの公開が始まりました。24万組を超える応募があり、当たっても一人当たりの見学時間(立ち止まって見てよい時間)は30秒で2カ所だけというすさまじさ。メディアでシャンシャンの話が出てこない日はありませんでした。
では伺います。みなさん、赤ちゃんパンダがそんなにお好きなんですか?
「赤ちゃんパンダはかわいくて好きだ」というのがこの24万組にとっての本源的価値で、それに時間という対価を払うなら正しい投資行為です。
しかし、一昨年の9月、和歌山県白浜町のアドベンチャーワールドでは結浜という赤ちゃんパンダが生まれ、昨年10月にはそのひとり立ち(親から離れて一人で暮らす)というめったに見られないイベントがありましたが、私自身、結浜を見に行って並んだことは一度もありませんし、それこそ一日中でも見ていられる。アドベンチャーワールドは日本のパンダの繁殖地としては極めて優秀で、今なら1歳4カ月になった結浜を含む5頭のパンダを同時に見ることができます。しかし、アドベンチャーワールドに行列ができたという話は聞きません(東京からは約1時間30分)。
つまり、世の中の大多数の人にとって、実はパンダの赤ちゃんを見たいわけではなく、人が行けないところ(抽選が必要)に私は行ったという自己満足と、特別性をインスタグラムなどでひけらかしたいだけで、本源的価値(パンダの赤ちゃん)とはまったく関係がない経済性がそこに発生しているということが明確にわかります。
この際、毛虫でもいいわけです。17世紀にオランダで起きたチューリップバブルはまさにこれで、チューリップの球根にダイヤモンドと同じ値段がついて、その後は……おわかりですね。
要するに本源的価値以上のものに投資をしてはいけないということ。それは単にだまされているだけなのです。
※AERA 2018年1月15日号