姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
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戦後日本を支えていたベーシックなものが壊れつつある1年だった(※写真はイメージ)
戦後日本を支えていたベーシックなものが壊れつつある1年だった(※写真はイメージ)

 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。 

*  *  *

 昨年を漢字一文字で表すのなら、「壊」だったと思います。振り返ると、戦後日本を支えていたベーシックなものが壊れつつある1年でした。東芝から始まり、神戸製鋼所や東レ、三菱マテリアルのデータ改竄、日産自動車、スバルの検査不正など、日本が世界に誇るリーディングカンパニーから噴き出す不祥事は、枚挙にいとまがないほどです。

 極め付きは、新幹線「のぞみ」に亀裂が見つかった問題でしょう。異臭や異音が発覚していたにもかかわらず、約3時間も運転を続けていたということに大変ショックを受けました。日本の製造業、ものづくりの根幹を成す素材産業だけでなく、システムや技術の信憑性までもが疑わしく、これまで日本のお家芸であった安全神話すら、崩れつつあるのかもしれません。

 一方で政治に目を向ければ、昨年は立憲主義だけでなく、専守防衛といったものまでもなし崩しに壊れていくような1年でもありました。取り繕ってきた部分が取り繕えなくなるとしたら、その後に来るものは何なのでしょうか。

 今年、明治維新150年を迎えます。その節目に、自分なりのオピニオン的な書籍『維新の影──近代日本一五〇年、思索の旅』(集英社)を今月末に出版します。歴史は繰り返されますが、そこにかつてとは違う新しいものが付け加えられて未来へと向かいます。近代化の栄光をたどるとそこには必ず「影」がありました。一方で現在は不安の影のなかに生きていて、一条の光明を求めるかのように、株高という、「虚の経済」に踊らされている面がないとは言えません。

 いずれにせよ、北朝鮮にまつわる問題は今年、何らかの回答が出てくるでしょう。同時にトランプ政権の命運も分かると思います。安倍内閣についても森友・加計問題がずっと尾を引いています。また、スパコン助成金詐取疑惑やリニアの工事をめぐる大手ゼネコンの談合疑惑など、疑獄事件に発展しかねない問題も気がかりです。

 果たして今年は、「虚の経済」に踊る日々が続くのか、それとも一挙に墜落していくのか。そこが明確に分かれる岐路に立たされるのではないかと思っています。

AERA 2018年1月15日号