日本に初めてパンダが来たのは1972年。日中国交正常化の記念としてだ。上野動物園の一般公開の初日には開門時に3千人が並び、「2時間並んで見物50秒」という過熱ぶりだった。それから45年。パンダは一過性のブームにとどまらず、人気者であり続けた。08年にリンリンが死亡すると上野動物園では約3年間、パンダ不在となり、年間の入園者数が落ち込んだが、11年、リーリーとシンシンが来園すると、前年度比約200万人増の約470万人に。それまでの無償譲渡から貸与制に切り替わり、年間95万ドル(約1億円)の支出に一部批判の声もあったが、圧倒的な人気ぶりを見せつけた。パンダは老若男女に愛され、海外でも人気だ。「パンダマジック」の正体は何なのだろう? 東京・阿佐谷にあるパンダファンの聖地を訪ねてみた。
「目の周りと耳と手足だけが黒い。初めて見たとき、その絶妙すぎる配色に一目ぼれしました。嘘でしょ!と思い『黒の柄がずれることはないんですか?』って動物園の人に聞いたこともあるほど(笑)」
26年前の興奮をいまに伝えるのは、「ぱんだ珈琲店」の金澤弓恵さん(44)だ。店をオープンしたのは06年。夫の敏彦さん(48)は「カフェでなく、喫茶店」を開くのが夢だった。開店に際し、弓恵さんが好きだった「パンダ」を店名に提案した。
店の人気定番メニューはパンダが描かれる、ぱんだオレやオムライス。オレの絵柄は季節によるバリエーションもあり、10種類を超える。パンダをうまく描くコツはあるのだろうか?
「目周りと耳と手足の黒を描けばパンダだと認識してもらえるので、パンダの絵はそれほど難しくないと思います。基本がたれ目ですから、かわいくなく作るほうが難しいかも(笑)」
弓恵さんはそうこともなげに言うが、敏彦さんの描くオムライスのパンダはなぜかいつも寂しげな顔になる。敏彦さんはこう言う。
「パンダの顔はシンプルな分、かえって難しいと思います。目の角度などのちょっとした具合で、表情や雰囲気がガラッと変わります」
ジャズが流れる、落ち着いたたたずまいの店内に身を委ねると、パンダに抱かれたような心地よさに包まれる。聖地といわれるゆえんか。さらに、パンダの魅力は外見だけではない、と弓恵さんはつけ加える。
「パンダは“絶対にのんびりゴロゴロしてやる”という空気をかもし出し、堂々と実践しています。その媚びず、ぶれない姿に、(私など)気の弱い人間は惹かれるのかもしれません」
(編集部・石田かおる)
※AERA 2018年1月1-8日合併号より抜粋