人工知能(AI)の進化が著しかった2017年。知能だけだったAIは、「身体」を獲得しつつある。18年は、ロボットやウェアラブル機器によって、人間を賢くしたり、身体能力を高めたりする「人間拡張(Augmented Human, AH)」に注目が集まる。
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ヘッドマウントディスプレーと呼ばれる大きなゴーグルのような装置を頭に装着し、頭、腕、足などに小型のセンサーを付けた。両腕を振って歩き始めると、すぐ横にいるロボットも同じように両腕を振りながら、ウィーンという音を立てて、タイヤを回転させて前進した。
ヘッドマウントディスプレー越しに自分の手を見ると、横にいるロボットの手。手を差し出して渡された風船をつかむ。風船は実際には自分の手ではなく、横のロボットがつかんでいるのだが、あたかも自分が風船をつかんでいるような気分になる。ふと横を見ると、自分の後ろ姿が見える。ロボットから見た視点をヘッドマウントディスプレー越しに見ているのだ。まるで、自分がロボットに乗り移ったかのような気分だ。
この「分身ロボット」本体は、大手産業機械メーカーTHKが開発。人とロボットが同じ動きをするシステムは、新日鉄住金ソリューションズとNTTドコモが共同で開発した。
アニメーション制作などで使われる、衣服などにセンサーを付けて人の動きをリアルタイムで捉える「モーションキャプチャー」を活用。頭や腕、足、腰など全身17カ所に加え、両手に26カ所のセンサーを付ける。センサーから得た情報をロボットに1秒間に60回送ることで、人と同じ動きをロボットがスムーズに再現できる。
5本指をロボットの手先に付け、特殊な装置付きの手袋を人が着けることで、ロボットが指でものをつかんだ触感をリアルに感じられるようにした。なぜこうした分身ロボットを作ったのか。
「以前勤務していた製鉄所では、耐火服を着た作業員が過酷な現場で作業をしていました。危険な現場で、人に代わってロボットが作業をしてくれるようになれば、と考えました」
と話すのは、新日鉄住金ソリューションズで開発を進めたテレコムソリューション事業部の小川哲男さんだ。
製鉄所のような現場は、人が作業しやすいように作られているので、人と背格好が似たヒューマノイドロボットが作業するのにぴったりだと考えた。ただし単純作業をする工場とは異なり、製鉄所での作業はその日、その時ごとに異なる。完全に自動化するのは難しい。