ネットや携帯電話に残される個人情報は「ビッグデータ」と呼ばれ、私たちの行動の先を読み、次に何かを買わせるために瞬時に使われる。グーグルで一度「シチュー鍋」と検索すれば、シチュー鍋の広告が何度でも閲覧画面に出るのはそのためだ。私たちの個人情報がなぜこれほどまでに狙われるのか。それは私たちの購買意識を操ることができるからだ。

●「集団的取り組み必要」

 モノのインターネット化(IoT)や人工知能(AI)は、この意識操作の範囲をさらに押し広げる。ロボット掃除機は家の広さや家族構成を分析し、自動運転車はあなたの訪問先を送信する。データを集めた企業は私たちを次の商品、次の行動へと誘導する。こうして個人の生活を監視することで利益を上げる市場経済を、米ハーバード大学ビジネススクールのショシャナ・ズボフ名誉教授は「監視資本主義」と呼ぶ。技術はいつの時代も、もっともうける手段として発達した。デジタル技術を駆使して一人ひとりを監視することが、いまや手段になった。私たちの同意なしに。

 NSAが築いたデジタル監視網の背景には、戦争と資本主義の実権を握る者たちの利益の一致がある。楽しい情報にあふれるネットと便利なデジタル機器には、政治的にも経済的にも私たちを最大限に利用し、操作する仕掛けが急速に忍び込んでいる。そして、楽しさと便利さによって抵抗をそぐ仕掛けも。

 だが、このままデジタル技術を監視の場にしてしまっていいのか。ズボフ名誉教授は言う。

「技術に抵抗できないと思うのは、技術信仰に毒されたイデオロギーでしかありません。すでに多くの人々が監視をやめさせたいと思っている。必要なのは集団的な取り組みです」

 通信の秘密を守り、個人を監視させない法制度に向けて、議論を始める時だ。(ジャーナリスト・小笠原みどり)

AERA 2017年12月11日号