三つめに、インターネットが米国を中心に開発されたことから、世界中のデジタル通信基盤の多くは米国内に存在し、米国の企業が所有している。アップル、グーグル、マイクロソフト、フェイスブック、アマゾン……日本でだれもが利用するネット企業は米国に本社があり、世界中に通信網を持つ。NSAがこれら独占化しつつある企業と秘密裏に協力関係を築いていたことは、スノーデン氏の暴露のなかでも世界に強烈なショックを与えた。自由と民主主義の旗手を自認するシリコンバレーが、利用者のプライバシー保護をうたいながら、裏で政府に大量の個人情報を提供していたのだから。

 電子通信網から個人情報を奪取するには、このように企業の協力が欠かせない。現代の監視は国家と企業が一体化している。その手法は様々だが、スノーデン氏が私のインタビューで「今日のスパイ活動の大半であり、問題の本当の核心」と語った手口はこうだ。

●横田や三沢、沖縄にも

 まず世界中の多くのデータは米国内の通信基盤を通過する(日本国内でのメールの送受信であっても、米国内のサーバーやケーブルを通過する場合は多い)。そのためNSAは国際通信ケーブルが上陸する米沿岸の陸揚げ局に侵入地点を設置した。陸揚げ局を管理する通信会社に協力を求め、局内の一室で通過する全データをコピーしているというのだ。NSAはこれら侵入地点を「窒息ポイント」と呼ぶ。日本の通信は米西海岸で息の根を止められている可能性が高い。

 一方でNSAは、もっと攻撃的な、特定の通信機器を狙ったハッキングにも熱心だ。米国のコンピューターセキュリティーの専門家、シュナイアー氏はNSAが既存システムの脆弱性を利用してハッキングを繰り返し、結果として「私たち全員のセキュリティーを弱めている」と著書『超監視社会』で指摘する。具体的には、ソフトウェアの脆弱性を発見しても放置する、広く普及しているハードウェアやソフトウェアに、忍び込むための「裏口(バックドア)」を仕込む、フェイスブックやリンクトインに成りすましてウイルスを送り込む、などの例を挙げている。

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