米NSAをご存じか。元職員スノーデン氏が内部告発した組織だ。便利はいいが、忘れてないか? あの組織に「見られている」ことを。インターネットを通じてスノーデン氏にインタビューを敢行したジャーナリスト小笠原みどりが、諜報の闇を“告発”する。
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電子通信ネットワークの安全性と個人の通信の秘密にとって世界最大の「脅威」は、おそらく米国家安全保障局(NSA)だろう。理由は主に三つある。
まず、米国防長官直属のスパイ組織NSAは、信号諜報を主要な任務とし、インターネット、Eメール、携帯電話、チャットなど世界中で交わされる個人の通信情報を大量かつ無差別に収集している。「対テロ戦争」下で米政府が極秘裏につくった恐るべき監視システムは2013年、NSA元契約職員エドワード・スノーデン氏の内部告発によって白日の下にさらされた。以来、スノーデン氏がもたらしたNSA機密文書に基づき、NSAや協力する他の諜報機関が「テロ防止」とは無関係に、他国政府への外交スパイ、企業への経済スパイ、ジャーナリストや報道機関、市民団体への妨害、世論の誘導や社会心理の操作などの目的で、監視システムを使ってきたことが次々と明らかになった。
二つめに、米国は「ほかの国すべてを合わせたより多くの情報機関予算」を持ち、13年度だけで予算総額は約720億ドルに上ると推計される(ブルース・シュナイアー『超監視社会』草思社)。NSAはその中心機関であり、全米最大の数学者の就職先といわれる。数学者たちは新たな監視ソフトの設計にいそしむ。
●裏で政府に情報提供
インターネットは米国防省の助成金によって1960年代から軍事技術として初期開発され、のちに商用に転化されたものだ。原子爆弾の製造が原子力発電につながったように、戦争は時代を画する技術を多く生み出してきた。「国家安全保障」を理由に、政府は莫大な予算と人材を獲得し、戦争に勝つ効率的な手段を非公開で開発できる。通信手段も新聞、タイプライター、写真、映画と戦争の度に大衆化を遂げ、巨大な利益を上げた。より速く、より広い、分散型通信網の開発は、核戦争時代の軍の要請だった。ワシントンが核攻撃されても、ハワイでバックアップが可能なのが分散型だ。人は死んでもデータは残る。軍は戦争を続行できる。