表面的なイケメンや萌えキャラではない画風を、作者とともに作り上げたのは、作品にとって強みになっているだろう。
原作の魅力である大正時代の描き方は、アニメーションにもふんだんに盛り込まれている。
「古橋一浩監督のこだわりのもと、美術面では美術監督の秋山健太郎さんが背景美術を手描きしています。中でも伊集院家は愛媛に現存する大正当時の建物である萬翠荘をロケハンして、ディテールまで参考に描いています」(同)
他にも当時の流行語や音楽も登場。この時代ならではの風俗や文化が描かれていたのも『はいからさん』の新しさだった。
一方で、戦争の足音が聞こえる暗い時代でもあった。
大正7年のシベリア出兵、米騒動、そして同12年の関東大震災。こうした世相を映す出来事も、『はいからさん』には描かれている。少尉はシベリアへ派遣され、行方不明になるし、物語のクライマックスには関東大震災が起こるのだ。
困難な時代に、明るく生きるヒロインを描いたからこそ、『はいからさん』には古びることがない、輝きがある。(ライター・矢内裕子)
※AERA 2017年11月27日号
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