巫女に扮したドラァグクイーンのミセス・オリーヴ(右)(撮影/森旭彦)
巫女に扮したドラァグクイーンのミセス・オリーヴ(右)(撮影/森旭彦)
新嘗祭・直会では有志の京都老舗料亭の若き職人たちが腕を振るう。貴船神社の巫女も総出でおにぎりを握る(撮影/森旭彦)
新嘗祭・直会では有志の京都老舗料亭の若き職人たちが腕を振るう。貴船神社の巫女も総出でおにぎりを握る(撮影/森旭彦)

 白い吐息に冬の入りを感じる晩秋の貴船神社。昔ながらの「お釜」で炊かれる米の匂いが境内を満たす。人々を驚かせたのは、神事進行役として登場した、ド派手な女装の「ドラァグクイーン」の巫女(みこ)だった。

 これが京都のアーティストユニット「だるま商店」が企画した貴船神社の「新嘗祭(にいなめさい)・直会(なおらい)」だ。新嘗祭とは収穫の恵みに感謝する全国的な祭りだ。日本では古くから農作物は「神々の賜り物」。食前の「いただきます」という言葉には、食べものに対する畏敬の念が込められている。

「しかし現代の人々は、『いただきます』を言わなくなった。新嘗祭の直会は、神様の前で供物をいただく会。きちんとおいしいものを食べ、自然と『いただきます』の意味が分かる機会になればと思って企画しました」

 だるま商店のディレクター島直也はそう語る。

 だるま商店はCGで現代の浮世絵を描くアーティストだ。手がけた作品は京都の寺社に奉納されている。貴船神社の新嘗祭・直会という伝統的な祭りを現代風に読み替え、彼らは「立体浮世絵」として再構築した。

「巫女とは神様に仕える女性であり、神楽を舞う、芸事に通じた存在です。巫女をドラァグクイーンが演じることで、現代における女性とは何か、芸事とは何かを、神前で考えさせる存在にしようと考えました」(島)

 巫女に扮したのは、ドラァグクイーンのミセス・オリーヴ。

「ドラァグクイーンというのは、歴史の中の語られざる自由。いつの時代にも、私たちのような同性愛者はいたと思うんです。ある人はひどい差別を受けたかもしれないけれど、ある人は、歴史に記憶されることなく、自由を謳歌していた。私もそうありたいと考える、ひとりです」

 だるま商店が立体浮世絵として描いたのは、こうした多様性を受け入れる貴船神社の懐の深さであり、京都の「今」である。(文中敬称略)

(ライター・森旭彦)

AERA 2017年11月20日号