「これは“あなた”の物語です。姿勢を正し、目をつぶり、大きく深呼吸してください」
浦上さんが語るストーリーに沿って、カードに記入した「大切なもの」を、自ら選んで手放していく。この選択が、苦しい。病に侵され、不自由さが少しずつ増えていく感覚だ。手放したものに対して、罪悪感が募る。時間が経過するにつれ、すすり泣く声が増えていった。
物語の終盤、私も“死んだ”。会場は静寂に包まれていた。会場が明るくなったところで、浦上さんがこう切り出した。
「皆さんは“命日”を共にした人です。これから全体で『最後に残したもの』とその理由を、任意で共有していきませんか」
今度は参加者同士で大きな輪になり、一人ずつ話す。残したものは、記者も含め7割の人が親きょうだいや子ども、ペットなどの「生き物」だ。一方で、ある女性参加者は10年前に病気になった時に読んでいた本を残した。「始める前は娘が最後に残ると予想していたので意外だった」と女性。浦上さんによれば、予想に反するものが残る人が全体の3割ほどいるという。