スピード感があって、多くが個人の裁量に任されている。それがベンチャーの醍醐味。もちろん、実際にそうなのだが……ベンチャー企業で働く人々の本音を取材した。
オフィスがあるのは都内屈指のオシャレエリア。「新しいことに挑戦したい」と大手メーカー営業部からベンチャーのPR会社へと転職した女性は、意気揚々とした気持ちで初出社の日を迎えた。ところが、1カ月もたたないうちに違和感を覚えるようになった、と話す。
面接の際は輝いて見えた全身シャネルの美魔女社長は、目立ちたがり屋で気分屋。機嫌が悪い日は、社員が「そのバッグすてきですね!」などと気を使い、業務に支障が出るのを回避する。「すてきな店が多くてランチが楽しいわよぉ」と言いつつ、「仕事が滞るじゃない」とランチのための外出は許されない。
何事も社長の胸三寸で決まるため、面接でプレゼンがうまかった未経験者は、入社早々先輩より給料が上。「夕飯は経費で何でも出前OK」だけが数少ない有言実行で、女性と同僚は、高級店のうな重や焼き肉弁当を注文しまくって、終電まで帰れないストレスを晴らしていた。
「3年目に血尿が出て辞めました。ベンチャーは社長との距離が近い。相性が合わないとストレスは半端ない」(女性)
個人が多くを任されてやりがいがある、しがらみも突破できる、などと言われるベンチャー企業だが、のべ200社以上のベンチャーとかかわってきた「ベンチャー広報」代表の野澤直人さんはこう話す。
「社長との接点が少ない大手と違い、ベンチャーは『逃げ場』がない。社長との相性のよしあしは非常に重要です」
だが、「逃げ場のなさ」が従来の自分を突破するきっかけになることもある。
大手人材派遣会社からベンチャーに転職した女性の場合、転職先の社長は会社員経験ゼロ。独自の世界観があり、その発想は良くも悪くも柔軟だ。
「給料を支払わなくてもみんなが楽しく働けるシステムを考えてしまった!」