生徒は経験を重ねるたび、何がダメだったかを反省し、次の戦略を練る。岩瀬さんは、前半のハイペースがたたった昨年の失敗を踏まえ、本番はペースを抑え気味に走った。しかし、山道のつらさは予想以上。

「痛くない。大丈夫、大丈夫」

 暗闇の中、声を出して自分に言い聞かせた。

 同校のOBでボストンコンサルティンググループに勤務する堀内健太郎さん(31)は、そうした経験が今の仕事にも生きていると話す。例えば組織改革のプロジェクトは長期戦。戦略を立て実行、修正の繰り返し。何度も壁が立ちはだかる。

「強行遠足も五里霧中にとにかく一歩を踏み出す。でもそれを続けることがゴールにつながると体感できた。それが踏ん張る時の原動力になっています」

 実は堀内さんの現役時代、女子生徒が遠足中に暴走車にはねられ死亡するという悲惨な事故が発生。一時は廃止案まで出て、距離も半減された。だがOBを中心に100キロ復活運動が起き、OB・保護者総出で安全確保体制を整備。4年前、伝統は復活した。堀井昭校長は言う。

「学校がリスクを恐れがちな今の時代、強行遠足ができるのはOBの思いと歴史があるから」

 スタートから14時間余り経った8日午前4時半。岩瀬さんは2年生の後輩と手をつなぎ、トップでゴールした。(編集部・石臥薫子)

AERA 2017年11月6日号より抜粋