──日本の現状は?

 2014年、安倍首相はOECD閣僚理事会で、「学術研究を深めるのではなく、もっと社会のニーズを見据えた、もっと実践的な、職業教育を行う。そうした新たな枠組みを、高等教育に取り込みたい」と演説しました。そんな中で今年3月には国際学術誌ネイチャーが、科学大国日本の失速を特集して報じました。さらに、6月に出たわが国の科学技術白書によれば、日本から発表された重要論文数は、24年前は世界3位、14年前には4位だったのに、最近は7位に落ちています。

──失速の理由は何ですか?

 実は04年の国立大学の「独立法人化」以来、政府からの運営費交付金が大幅に削られました。国立大学の基礎研究は、この交付金で行われてきた部分が大きい。さらに、一連の立法措置と文部科学省の指導により、教授の雑用が激増して研究時間も減った。45歳以下で短期契約の中堅大学教官が07年から6年間で倍以上に膨れ上がり、博士課程に進む若手も激減しました。

 財務省は米国にならって研究資金を科学者が競争で獲得するようにしました。その結果、大学の先生は研究公募の枠組みに合わせて“役に立つ研究”に転向した。アインシュタインは晩年、「偉大な研究は自由な環境から生まれる」という言葉を残しています。この言葉の意味をもう一度考えてみるべきではないでしょうか。

AERA 2017年10月16日号より抜粋

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