この津波堆積物は、大津波が海底の土砂を陸上に運び込んで地中に堆積したいわば“津波の記録”だ。

 東北大学などは05年の宮城県沖地震以降、宮城・福島の両県で調査を実施し、07年度には福島第一原発6号機から北へ約5キロメートル、海岸線からは約1キロの内陸部でも堆積物を発見した。仙台平野や石巻平野では、869年の貞観地震などの津波が当時の海岸線からなんと3~4キロ内陸まで浸水したことも分かり、この地域ではマグニチュード8クラスの地震が450~800年程度の間隔で繰り返し起きていることが10年までに分かっていた。つまり、これだけの新たな判断材料があった、ということだ。

 JNESは、この津波堆積物の分布に合致するよう、福島・宮城沖で4種類の地震を想定。詳しい数値計算を伊藤忠テクノソリューションズに2593万円で委託し、女川原発に到達する津波の高さを求めた。それによると、四つの地震が引き起こす津波は、高さが3.2メートルから5.6メートル。敷地の高さ14.8メートルよりも低いことを確認し、解析結果を報告書に記載した。

 ここまではいい。問題は福島第一原発をチェックする東電だ。

 08年に身内の子会社、東電設計に地図上の2、4と同じような位置で同規模の地震を想定し津波を計算させた。そこから福島第一原発への津波の高さがそれぞれ9.2メートル、15.7メートルになるとの結果を得ている。敷地の高さ10メートルを超える津波。当然、この数値が裁判で最大の争点となっている。東電側は「想定はまだ不確実で、ただの試計算にすぎない」と主張する。だがJNESは保安院の指示で、東電と同様の想定に基づく計算を女川原発の安全性チェックで実施した。念を押すが、これは「試算」ではない。(ジャーナリスト・添田孝史)

AERA 2017年10月16日号より抜粋