●深い悲しみの中に希望

 16年11月17日。最後に小さな小枝を描きあげて、作品は完成した。使ったペン先は400を超えた。仕上げた池田は言う。

災害からの再生をテーマに描き始めたが、3年間に起きたさまざまな出来事とかさなりあううちに、より広い、生きることへの希望と祈りが込められた」

 今年1月、池田の故郷・佐賀県立美術館で開かれた個展で「誕生」がお披露目されると、美術館史上最多の9万人超が訪れた。石川県の金沢21世紀美術館に続き、7~9月にかけて、東京都新宿区のミヅマアートギャラリーでも公開された。

 9月5日、ギャラリーを訪ねると、一人の男性が「誕生」に見入っていた。一本松のある陸前高田市で家具店を営む高橋勇樹(39)。東日本大震災の津波で母が行方不明になり、両親が営んでいた家具店も自宅も失った。父も後を追うように半年後、病で逝った。

 その後高橋は、家具店を再開。多くの人たちが仮設から復興住宅へと移り住んだ。一本松を中心とした復興祈念公園の計画も進む。一方、同市では今も約200人が行方不明のままだ。「誕生」に、時を経ても癒えることのない傷痕と、6年半を経て変わりつつある人々の暮らしを思う。高椅は言う。

「深い悲しみの中にも希望が生まれるということを、この絵を見て改めて感じました」

(文中敬称略)

(朝日新聞社会部次長・三橋麻子)

AERA 2017年10月2日号

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