批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。
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9月末衆院解散、10月下旬総選挙が噂されている。連休前に観測気球の報道が出始め、あれよあれよというまに現実となった。9月25日に首相が記者会見で正式に表明するという。
これから1カ月間、メディアを巻き込み狂騒が繰り広げられるのだろうが、個人的には「うんざり」の一言に尽きる。この選挙には論点も大義もない。表向きは消費税や国防が論点とされるのだろうが、すべて後付けにすぎない。このタイミングの解散が、党利党略しか考えない独善的行為であることは明らかだ。民進党が醜聞で躓(つまづ)き、小池新党も未成立のいまならば、どさくさで選挙に勝てると踏んだのだろう。
あまりに唐突な展開に、解散権自体への疑問の声も上がっている。たしかに現在の憲法解釈では解散権は首相の専権事項である。とはいえ他国では一定の制限が付されている例もある。そもそも選挙には巨額の税金が費やされる。安倍首相は2014年末にも衆院を解散しているが、費用は617億円だった。今回も近い金額がかかる。わずか3年のあいだに、1千億円を超える血税が首相の一存で使えていることになる。制限の是非が議論されるべきだ。
それにしても、本当にうんざりするのは、これだけスジの通らない解散でも結局自民党が勝つしかないことである。安倍政権に不満な国民は数多くいるだろうが、その受け皿がどこにもないのだ。
ぼくは1971年生まれで、選挙権を獲得してすぐ93年の衆院選があった。自民党が下野し細川内閣が誕生した歴史的な選挙である。それから四半世紀、政権交代可能な野党を求めて、つねに「自民党と共産党以外」に票を投じ続けてきた。日本新党もみんなの党も民主党も支持した。けれどもその願いはまったく実らなかった。おそらく同世代には、ぼくと同じような投票行動をし、そして同じく失望している方が少なくないのではないかと思う。
自民党か共産党か、現状肯定か絶対反対かしか選択肢がないのであれば、民意は反映されない。次の選挙までに、自民の補完勢力でも硬直した左翼でもない、本当の力強い野党が現れることを期待したい。
※AERA 2017年10月2日号