美少女や特撮ヒーローだけじゃない。美術品や、仏像まで──。日本発のフィギュアがさらなる広がりを見せている。
いわゆる「オタク」なわけではない。でも、パンダやスヌーピー、かわいいキャラクターグッズを集めるのは好きだ。そんな40代の会社役員女性の自宅飾り棚には、1列だけ、ちょっと変わった人形がある。
ロダンの考える人やミロのヴィーナス、ミケランジェロのダビデ像やダビンチのウィトルウィウス的人体図など、名だたる美術品や絵画のミニチュアの数々だ。その名も「テーブル美術館」という。
いずれも全高20センチ足らずだが、造形は極めて精巧だ。受注生産品で、発売されるたび、1体ずつ買いそろえてきた。関節部が可動式で、付属する複数のパーツを使えば、ポーズを自由につけられる。
●ヴィーナスの腕を復元
女性の一番のお気に入りはヴィーナス像だ。絵画を学んだ美大生時代、デッサン用に学校に置かれていたからか、愛着がある。そのヴィーナス像は、いま、左手にリンゴを掲げている。
紀元前100年前後の作とされるこの像の実物は、パリのルーブル美術館に所蔵されている。1820年のミロス島での発見当時から、両腕が失われ、これまで多くの人の想像をかき立ててきた。「実は左手にリンゴを持っていた」という俗説が広く伝わっていることは、女性も知っていた。フィギュアには、その失われたはずの両腕と、リンゴのパーツが付属していたのだ。
さらに、実物は立ち姿のヴィーナスだが、このフィギュアでは、腰布のパーツを取り外し、腰かけることもできる。
テーブル美術館シリーズには、こうした思わずニヤリとする仕組みが施されている。
「はじめは現物通りのポーズで置いて満足していましたが、動かせると、楽しみ方が広がる。ここがこうなっているのでは、実はあの後こうしたのでは、と想像させてくれるおもしろさがあるんです」(女性)
その日や週ごとの気分によって、ポーズは変える。時にシュールなポーズも取らせる。
「疾走感が好きで、一時は全員が走っていました」(同)
テーブル美術館シリーズを企画した、プロダクトデザイナーの錦織敬樹さんは、制作のコンセプトをこう語る。
「精巧なだけではおもしろくない。美術品としての歴史や背景にはアカデミックにアプローチした、大人が楽しめるフィギュアを作りたかったんです」