出産時にだけ採取することができるさい帯血。写真は分離作業の様子 (c)朝日新聞社
出産時にだけ採取することができるさい帯血。写真は分離作業の様子 (c)朝日新聞社
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 がん治療などへの効果をうたい、違法に「さい帯血」を投与したなどの疑いで、販売会社代表や医師など6人が逮捕された。背景には過熱する再生医療ビジネスの危うさがある。

 母親と胎児を結ぶさい帯(へその緒)と胎盤に含まれるさい帯血は、出産時にだけ採取できる貴重な血液で、様々な血液細胞になる造血幹細胞を豊富に含む。白血病など血液のがんや再生不良性貧血では「造血幹細胞」移植が唯一根治が見込める治療法で、細胞の採取源には健康な人の骨髄細胞やさい帯血などがある。

●規制なき「民間バンク」

 骨髄細胞は提供者の腸骨に針を刺して採取するが、さい帯血の採取はこの痛みを伴わない。また、さい帯血の造血幹細胞は免疫機構が未熟なため、拒絶反応が起きにくいという利点もある。

 このさい帯血を超低温で凍結して長期保存するバンクには、公的、民間の2種類がある。妊婦からの善意の無償提供に基づき保存を行うのが公的バンクで、1999年に国の財政支援を受けて、全国の保存施設を結ぶ「日本さい帯血バンクネットワーク」が設立。2014年から日本赤十字社が事業を継承し、国内唯一の「造血幹細胞提供支援機関」として17年9月現在、公開さい帯血数は約1万1千本である。民間の先駆けは99年設立の「ステムセル研究所」。17年8月現在の保管者数が4万1千件を超える業界最大手。同社のプランでは、分娩時に分離費などで計19万円、年間5千円の保管費用がかかるという。

 法的な整備も進む。12年に治療用さい帯血の安定確保を主たる目的とした「移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律」が制定。これは国の許可や指導・監督を規定したものだが、民間バンクはこの規制を受けない。

 また、民間は運営面で課題も抱える。公的バンクのさい帯血は第三者に提供できるのに対し、民間バンクのさい帯血は提供者本人や家族のために保管される。「赤ちゃんが白血病になった場合」などをうたい文句に、複数の民間バンクが立ち上がったものの、造血幹細胞移植が必要になる確率は10万人に1人程度。保管者数が伸び悩んだ。09年に倒産したバンクもあり、今回はそこからさい帯血が流出した。

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