●根拠のない医療が横行
そんな最中、にわかにさい帯血の“需要”が生まれ始めた。再生医療への期待の高まりだ。07年に体の様々な細胞に分化できるヒトiPS細胞が樹立され、12年には発見者の山中伸弥・京都大学教授がノーベル賞を受賞。京大ではさい帯血からiPS細胞を作り出す技術も確立した。
今回の逮捕の根拠は、14年施行の「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(再生医療安全性確保法)。日本の医療には、健康保険が使える「保険診療」以外に、自費で診療をする「自由診療」がある。美容などの目的で体性幹細胞(もともと体に備わっている体細胞)を用いた医療を“再生医療”の名の下に実施する医療機関は少なくない。だが、品質や有効性、安全性について国の評価や承認を得たものではなく、野放し状態だった。日本再生医療学会理事長の澤芳樹・大阪大学教授は言う。
「“暴走族”たちが、さい帯血を静脈注射すれば○○が治るといった、エビデンス(医学的根拠)がないことをネットを通じてばらまくなど、悪質だ」
同学会などの働きかけで安全性確保法を制定し、自由診療も規制対象に。さい帯血利用は、同法で最もリスクの高い第1種に分類された。
学会では、今回の事件を受け、▽さい帯血や脂肪細胞のように、他人から採取した細胞を移植する行為▽日本再生医療学会の認定医が勤務していない機関での細胞を移植する行為▽その他、安全性確保法に基づいて実施していることが確認できない行為──については、安易に受けることはせず、事前に適法性と安全性・有効性を十分に確認するよう注意を喚起している。(ジャーナリスト・塚崎朝子)
※AERA 2017年9月11日号
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