北朝鮮への軍事手段の可能性を演出し続けるトランプ米大統領。しかし内情は少し違う。自国内の問題が深刻で、北朝鮮どころではないのが実情だ。
「米国は同盟国の日本と100%ともにある」
8月29日のミサイル発射から約3時間半後、安倍晋三首相と電話会談したトランプ大統領は、そう話し、北朝鮮への圧力強化で一致した。菅義偉官房長官は同日の記者会見で、「日米の立場が完全に一致していることが確認された」と強調。日米両首脳は30日にも再び電話会談をし、連携を確認した。
米韓合同軍事演習をする一方で、対話への可能性も示唆しながら北朝鮮の出方をうかがっていたトランプ氏だけに、8月26日の短距離弾道ミサイル3発に続く今回の新型中距離弾道ミサイルの発射が、大きなストレスになったことは間違いない。
ただ、日米間には温度差がある。今回のミサイル発射は、巨大ハリケーンによる深刻な被害が米国内で拡大する中で起きた。白人至上主義をめぐる国民同士の暴力衝突や、相次ぐ米軍艦の衝突事故もあり、自国問題への対応に追われ続けているトランプ大統領は、北朝鮮を最優先に考える余裕がない状況だ。
●今後も日本上空を通過
実際、「全ての選択肢」を再び強調した大統領声明が出たのは、ミサイル発射から半日以上経ってから。お得意のツイッターでも「対話は解決策にならない」などと今回のミサイルに初めて触れたのは、発射から約1日半も経過した後だった。
米国民の関心も北朝鮮にはない。災害や分断社会への政権対応が最大の関心事だ。いつでも攻撃対象になりうる日本と、本土への攻撃はまだ可能性が低い米国の国民心理では、北朝鮮問題の優先順位が全く異なっている。
それでも米国にしてみれば、一連の北朝鮮対応に手応えもあった。北朝鮮がミサイルの標的と宣言していたのは米グアム島周辺だ。激しい圧力をかけ続けたトランプ政権は、北朝鮮の金正恩委員長から「米国の様子をもう少し見守る」という発言を引き出した。ミサイルは発射されたが、グアム島周辺を標的にさせなかったことは、トランプ氏にとって国内世論への一時的な政治アピールにはなる。