●“冒険”があるか楽しみ

 既存の曲に関してはいくらでも情報を集積できるので、AIはその“真ん中”を選ぶことはできる。ただその旋律やヤマがどうしてそうなったか解明できない。理由は、人間、ミュージシャンは本当のことを言えないから。例えば、なぜ最初にGの音に触れたのかは、気持ちまで覚えていない。忘れちゃうな。AIは分からないことを学んでも、分からないと思う。

「なんか聴いたことある」というなじみがない曲も、ブレークするのは難しい。そのさじ加減がAIにできるか。この「コンピューター、お前わかんないだろう」みたいなことを分かるかどうかを知りたいですね。

 あと、AIが“冒険”を学習し、ダメ元で“裏切る気持ち”を出せるのかどうか。囲碁では「人がしない手」を打つということですけど、ちょっとそれに近いのかな。膨大な情報から「あったね、あのフレーズ」っていうのを出してきてくれたら、楽しい。そういう曲、たまにあるんです。すごい有名だけど、忘れがちな曲って。

 作曲・作詞、編曲もですけど、音楽家の仕事は「クラウド」っていう言葉が生まれる前からクラウドです。いま思い描いたものは、10秒後には同じものは絶対再現できない。まさに雲。雑談した次の瞬間には忘れたりする。そこでAIは、この何秒か前にいきたかったフレーズはこうですよ、みたいなサポートもできるかもしれない。

 第1次産業や第2次産業の葛藤は大きいかもしれないが、僕らの仕事はないと死ぬようなものではない。AIやクラウドは仲間、サポートメンバーになると思う。僕は、AIには二つの音楽を作って聴かせてほしい。何もオーダーをせずに「めちゃくちゃポップな曲」と、めちゃくちゃ条件を出してその通りの曲を出してくれるかっていう。この2曲を聴いてみたい。(構成/編集部・山口亮子)

AERA 2017年9月4日号

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