●「境界線」は軟らかい
新たに発見された「日本の境界線」を一目見てみたい! 北村教授にアテンドしてもらい、7月末、記者とカメラマンは現地に向かった。
静岡市市街から、郊外へ車を走らせること1時間。木々に覆われたデコボコの山道を進むと、中腹のワサビ農園に着いた。
「ここからは徒歩で露頭に向かいます。渓流を上るので転ばないように注意してください」
そう言うが早く、北村教授は軽快に渓流を上がっていく。その背中を見失わないように、息も絶え絶えでついていくアラフォー記者と60代カメラマンの2人……。途中、こけむした川石に足をすべらせながら上ること、約40分。突然、ぱっと開けた空間の先に、巨大な断層が現れた。
「ここが、日本の境界線……」
静謐な空間の中に、ぴしゃぴしゃと水滴が落ちる音だけが響く。そびえ立つ断層は、何千万年もの時間を刻んだ重厚さをまとい、眼前に迫ってくる。見ると、確かに向かって左側の岩体と間の粘土層(断層ガウジ)、右側の地層ではまったく色や硬さが違う。粘土層は水を多く含んでいて、触るとブニブニしている。
「断層が動いた摩擦熱で岩石が砕けて溶け、粘土状になった。そこに水が浸潤するので、軟らかいのです」(北村教授)
ここは、現在は活断層ではないが、過去、確かに大地が動き、日本が形成されたのだという歴史が感じられる場所だった。(編集部・作田裕史)
※AERA 2017年8月14-21日号