日本人がなじんできた「お葬式のかたち」がいま激変している。従来型のお葬式ではなく、「家族葬」が広く受け入れられ、弔いの形は家から個へ――。葬儀費用の「見える化」と価格破壊は何を生むのか。AERA 8月7日号で、新しい葬式の姿と、大きく影響を受ける仏教寺院のいまを追った。
「あの世」を信じる人が増えているのだという。その背景にあるものとは――。
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「家は◯◯宗だけど、自分は特に宗教はない」。「無宗教」を自認しながら、盆が来れば墓に参り、正月には初詣に行く人は多い。統計数理研究所の「宗教調査」によると、調査を開始した1958年から現在まで、ほぼ一貫して宗教を信じる層は3割で、信じない層が7割程度いる。ところが「霊魂の存在」を信じる人は増えているという。
この調査の「『あの世』を信じるか」という項目では、58年の調査では、「信じる」が20%、「信じてはいない」が59%を占めた。ところが2013年の調査では全体の40%が信じると回答、「信じてはいない」の33%を上回った。世代格差もある。20代では「信じる」が45%だが、70歳以上では31%に留まった。
こうした調査から、宗教やあの世に懐疑的な層と考えられる“団塊の世代”だが、変化の兆しも見えてきた。宗教学者の正木晃さんの講座には、団塊世代の姿が目立つようになった。正木さんは言う。
「自分自身も配偶者や家族も年を取り、死が身近になり、不安が募っているのでしょう」
先日はこんな相談も受けた。
ある男性はいわゆる「無宗教」だったが、亡くなった妻の墓を近所の寺で建て、弔うつもりで寺の勉強会に出席。最後に思い切ってこう尋ねた。
「私の妻はいま、どこで何をしているのでしょうか」
ところがその寺の僧侶は誰も答えてはくれなかった──。
この背景について、正木さんはこう分析する。
「死後に霊魂の存在を明確に認めているのは、仏教では高野山真言宗と日蓮宗だけといわれます。近代仏教学には、1930年前後に霊魂の存在を否定した東大の仏教学者の宇井伯寿らの影響が色濃く残る。ほかの宗派は曖昧で答えようがない、というのが実情でしょう」