「趣味は何ですか?」。会話の糸口に聞かれることは多いもの。だが、これといって趣味がないと、この質問はプレッシャーだ。SNSにはリア充趣味に興じる様子がてんこ盛り。趣味界は、なんだかんだと悩ましい。インスタ映えを重視して「趣味偽装」する人、趣味仲間から抜けられずに苦しむ人もいるらしい。AERA 7月31日号ではそんな「趣味圧」の正体を探る。
趣味は苦痛でも義務でも、自分を盛るアクセサリーでもない。己から湧きいでる「癖」、究極の「こだわり」だ。誰に理解されなくても幸せ。趣味とはきっと、そういうことだ。
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ギラギラと照りつける太陽の下、河川敷に設置したグリルに火をおこすと、仲間がビールを渡してくれた。この日のバーベキューを主催した成川哲郎さん(42)は、乾杯の音頭を取った。
「総勢16人、いい数ですね。乾杯!」
16がなぜいい数なのか。
「2の4乗、2の2乗の2乗、4の2乗です」(成川さん)
成川さんは数字を愛でる。特に2は格別だ。愛車ナンバーも4096、2の12乗だ。
●数列の広がりに興奮
数字愛の発露は、小学1年生まで遡(さかのぼ)る。算数を習うと、1+1=2、2+2=4、4+4=8といった計算を喜々として続けるようになった。父親が「2のn乗だよ」と教えてくれた。n乗。妖しい響きと、果てない数の広がりに心奪われた。
小6、遂に手に入れたPCで2の500乗まで計算、プリントアウト。長いロール紙に2、4、8、16と桁が増え、数列の裾野が広がる様に興奮した。
円周率を知ると、計算に興じた。大学1年時、数式とアルゴリズムを工夫し、1GBのHDDをすべて計算にあて、1カ月、PCを走らせた。弾き出した円周率は、1億3421万7728桁。2の27乗にあたる。
「当時、雑誌に100万桁を計算した人が載っていた。なら自分は1億桁と思ったんです」(同)
現在のテーマは「大きな数」。本業はメーカーの開発職で、妻と中学3年生の娘がいる。仕事に家庭にと忙しい日々だが、時折、自室にこもって紙にペンを走らせ、PCを立ち上げ、数の彼方に思いを馳せる。