野宿をはじめて20年。20代は続けていけるか不安もあったが、いまはできると確信している。

「20年にはノジュリンピックを開きたい。外で寝るだけなら言葉の壁もありませんから」(同)

「放っておけないんです」

 展望タワーにまつわるニュースに触れるたび、豊科穂(とよしなみのる)さん(48)は義務感に駆られる。

 本業は地図や路線図関係のデザイナー。仕事の傍ら、全国の展望タワー総合サイト「タワー・ファンタジア」を運営する。開設から15年、日本に約400基あるタワーのうち、80基あまりに登頂した。

 タワーのいまを記録したいが、今日あるタワーが明日もあるとは限らない。歴史を掘り起こすにも手間と時間がかかる。
「調べているうちに、『スクープを取ってやる』という気持ちになることも。でも、締め切りはないし、自分が納得するまでやればいいだけですから」(豊科さん)

「生き様」と自認する趣味の鉄道で各地をまわるうち、タワーに上る自分に気づいた。次第に景観ではなく、タワー自体に関心を持つようになっていた。

「内部の材質も構造も、バラエティーに富んでいます。たとえば回転昇降式タワーは昨年まで日本に6基を残すのみでした。今年、24年ぶりに名古屋のレゴランドに新しいタワーができた。タワーマニア界の大ニュースです」(同)

 熱く語る豊科さんだが、今のところ、タワーマニアはそう多くない。ネットがきっかけで知り合った同好の士と開催しているタワーマニア忘年会も、集まるのは10人ほど。それでも、と豊科さんはほほ笑んだ。

「いつか、展望タワー学会をつくりたい。学術団体になれば、個人では難しい調査もできるかも。旅先でつい展望タワーに上ってしまう潜在ファンは多い。裾野は広いはずですから」

 彼らの先に道標はない。けれど、湧きあがる衝動と情熱があり、後ろに道ができている。その濃密な軌跡を、人はきっと趣味と呼ぶのだ。

(編集部・澤志保)

AERA 2017年7月31日号