ダイナミックプライシングは、旅館・ホテルの宿泊代、飛行機の運賃、レジャー施設、スポーツ観戦のチケット代などでも導入されている。利用客が集中する休日は宿泊代、飛行機運賃が高くなる一方で、平日は料金が安くなる。東京ディズニーリゾート、ユニバーサルジャパンも時期や曜日によってチケット価格が変動し、プロ野球の各球団、Jリーグのクラブチームが需要に応じて座席価格を変動制にしている。
日本発の価格専門のコンサルティング会社である、 プライシングスタジオ株式会社のプライスコンサルタント・辻佑介氏が解説する。
「ダイナミックプライシングは米国でいち早く導入され、ボーリングの利用料金やスーパーの品物の値段にも取り入れられています。日本でも5年ほど前から旅行、テーマパーク、 スポーツイベント業界を中心に導入されるようになりました。スポーツチケットが分かりやすいですよね。注目度の高い試合で料金が高くても買いたいと思うファンがいる一方で、平日の安い料金の日に観戦したいファンもいます。利用客の多様なニーズに応え、一律の価格で行っていた場合の売上の機会損失を防ぐだけではなく、少し高い値段を支払ってでも観戦席を確実に確保したい、といったような顧客のニーズに応えることで、顧客理解を得られやすいという可能性も秘めています」
サービスを提供する企業、利用客の双方がウィンウィンになる制度に見えるが、運用はことのほか難しい。ダイナミックプライシングを導入しているプロ野球チームがチケット価格を変動価格で設定したところ、「料金が高すぎてびっくりした。観戦に行きたくても無理」、「ファンを大事にしているとは思えない」など、ネット上で炎上することもあった。
辻氏は、変動価格の料金設定について警鐘を鳴らす。
「料金の上限・下限をいくらにするのか、といったような料金設定をすべてAI任せにすると、利用客の感覚などを加味して料金に対するコントロールが効かせられないため、極端に高すぎる・安すぎると感じさせる料金になる可能性があります。極端な料金によって利用客に不信感を抱かせてしまった場合、商品は買ってもらえないと想定されますし、最悪の場合には企業に対する信頼を失う恐れもあります。企業側はダイナミックプライシングによって、売上目標の達成を目指すことはもちろん、利用客にどのように感じさせる価格を実現したいのか、といったように、自社・顧客など様々な視点に立ってダイナミックプライシングを実現する目的を定めることが非常に重要です。この部分は企業によって事情が変わってきます。『自社内だけだと、どうしても社内の目線が強くなってしまう』というお悩みを最近よくお聞きするのですが、そのような場合には、社外の目線を取り入れるという意味でも、専門家と協力して変動価格の料金設定をすることを検討しても良いと思います」