
「コンビニ百里の道をゆく」は、47歳のローソン社長、竹増貞信さんの連載です。経営者のあり方やコンビニの今後について模索する日々をつづります。
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仕事を続けていれば、誰にでも失敗はあります。むしろ大きな成功などはまれな体験で、日々の仕事は小さな失敗の連続。若いころは、私も多くの失敗を経験しました。
私がいた当時の三菱商事畜産部では、入社後3年間は、毎月末に自分で伝票を起こしてクライアントに請求書を出し、入金確認までするというのが伝統でした。お金の流れを身をもって知るためです。
私はとにかくこれが苦手で……。毎月、締め切り間近まで何もせず、経理担当の先輩が「代わりに伝票起こしてあげるから台帳貸して」と助け舟を出してくれても、台帳も真っ白。「じゃあ台帳も書いてあげるからメモを出して」とまで言っていただくのですが、そのメモすらほとんどなく、あきれられる始末(笑)。
それでも売り上げを回収し損ねることがなかったのは、先輩たちが親身になって助けてくれたおかげです。
その後、食肉の輸入自由化でいままでの仕事のやり方が通用しなくなり、スーパーや外食を一軒ずつ回って、自分たちの肉を買ってもらうルートを独自に開拓することになりました。
最初は「商社の営業がいきなり来て何だ?」という感じで、ろくに話もできませんでしたが、時間と情熱をかけてバイヤーの方々を口説くうち、次第に話を聞いていただけるようになりました。そして、一つ注文が入ると連鎖するように受注が続き、販売網は全国に広がっていきました。
周囲からは「大商社が肉を手売りするなんて無理だ」と言われていたし、私自身も半信半疑。部は赤字でしたので、接待もガード下の赤ちょうちんや「3千円飲み放題」の居酒屋でしたが、当時の上司には「『どこで飲むか』ではなく、『話す価値がある』と思ってもらえる人間になれ」と教わりました。
商売というものは、最後は会社の規模や知名度ではなく、人とのコミュニケーションで回っていく。そう学んだいい経験でした。失敗も苦境も恐れるに足らず、です。
※AERA 2017年7月17日号

