地に落ちたイメージを回復させて、業績も上向かせる……。これまで、多くの企業が直面し、その実現に腐心してきた。これは、個人の場合でも同じこと。落ち込んだ底が深ければ深いほど、復活には時間がかかる。AERA 2017年7月3日号では、「どん底からの脱出」と銘打ち、見事V字回復した企業を大特集。そのとき企業は、個人は、何を考え、どう振る舞うべきなのか。当事者たちの話を聞いた。
2014年夏に浮上した協力工場での期限切れ鶏肉使用問題。15年1月には異物混入問題も発生し、日本マクドナルドHDは15年12月期、連結決算で上場以来最大の347億円の赤字に転落した。しかし、16年12月期には53億円の黒字を達成し、V字回復。消費者に謝罪するはずの記者会見で「私たちも被害者」と述べて批判された社長のサラ・カサノバとマクドナルドは、いかにしてあのどん底から抜け出したのか。
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店舗での写真撮影が終わると、専属通訳の女性がサッと、ハンバーガー形の小さなポーチをサラ・カサノバ(52)に手渡した。カサノバはそこからポテトの無料券を取り出すと若い男性客に歩み寄り、日本語で「すみません」。ポテト券を手渡しながら、英語で続けた。
「騒がしくしてすみません。お食事どうでした? Good?」
親指を立てて、屈託のない笑顔。戸惑っていた男性客もつられて笑顔になり、親指を立てて応じた。こんなふうに来店客に話しかけるのは、珍しいことではないという。
「サラさん」
社員はもちろん、クルーと呼ばれるアルバイトからも親しみを込めてそう呼ばれる。気さくでコミカル。それが、日本マクドナルドホールディングス(HD)社長兼CEO、サラ・カサノバの印象だった。だが、こんな笑顔を見られるようになったのは、最近のことだ。
●私の言葉足らずでした
13年に原田泳幸の後を継いで日本マクドナルド社長兼CEOに就任。1年後の14年7月、中国の協力工場が期限切れの鶏肉を使用していた問題が発覚した。あの鶏肉そのものが、どの会社のどの商品に使われていたのかはいまもわからない。だが、日本マクドナルドがこの工場から、チキンナゲットの2割を仕入れていたことは事実だった。
床に落ちた肉を拾い上げる従業員。青く変色した肉。いまも多くの人の脳裏に焼き付いているだろう強烈な映像に、カサノバの一言が追い打ちを掛けた。
「マクドナルドはだまされた、われわれも被害者だ」