「システムの場合、あとはソースコードを書き進めるのですが、文章を書き進めるのはとても大変でした」(西村さん)
綿密な設計があったにもかかわらず、約3カ月かけてそれぞれが書き上げた登場人物は、性格も行動パターンもバラバラ。書き直してつなげては地ならしをする作業が2カ月続いた。完成したのは、公募から1年後。
「本を手にしたときは感激と同時に、よく作り上げたな、とわれながら感心しました(笑)」
と西村さんは感慨深げだ。版元となった幻冬舎メディアコンサルティングの担当編集者・井口太良さんも、その仕上がりに驚いたと話す。
「非常に自然な書き上がりです。各書き手に思い入れのあるキャラクターがいるようで、随所でキャラ立ちしていることも、作品を生き生きさせています」
西村さんは、モノ作りというくくりの中で、システムの構築と小説の執筆には親和性があったと話すが、実は成功した真の理由は別にある。
「SIerの仕事の要は言葉なんです。顧客の思いを聞き取り、それをプログラム化する過程で、メンバー全員と正確な言葉で齟齬なくビジョンを共有する必要があります。『言葉力』があったからこそ、チームでビジョンを共有し、作品作りができた」
2作目も計画されており、新メンバーの公募がまもなく始まるという。
(ライター・須賀華子)
※AERA 2017年6月19日号