
「チーム2045」なる作家がこの春、一編の小説を上梓した。その正体は、IT企業勤務の男女6人。日本初の「プロジェクト型小説」はいかにして生まれたのか。
新日鉄住金ソリューションズはIT業界のなかでも情報システムの企画、構築、運用などを行うシステムインテグレーター。SIer(エスアイヤー)などとよばれる企業だ。この会社の若手社員6人が今年3月、「チーム2045」の名前で『シンギュラリティ』という小説を出版した。
ITの開発現場を舞台に繰り広げられるドラマにサスペンス要素を織り交ぜたこの作品、文章に関しては素人の6人が、システムを構築するのと同じ手法で書き上げた、日本初の「プロジェクト型小説」だという。
シンギュラリティは、「人工知能(AI)が人間の能力を超える分岐点」を指す言葉。もともとは、幹部たちが「Slerの認知度を高めるために小説を」と考えたのが発端で、執筆メンバーは2016年3月の社内公募で集まった。
●「要件定義」から始めた
SEの西村世大郎さん(41)と里見裕二さん(36)、広報の森井友美さん(32)、営業の鎌田隆寛さん(38)など、メンバーは職種もさまざま。応募動機も6人6様で、共通していたのは「面白そう!」という好奇心だけだった。与えられたミッションは「SIerを舞台に、ITの可能性を広める作品を書く」だったが、リーダーの西村さんは言う。
「何から手をつけていいかわからず、最初の1カ月は、思いつく話を書いては週に1度皆で集まっていました」
創作活動が難航する中、システム構築でいう「要件定義」になぞらえて、もう一度状況を整理することを思いついた。
「われわれの仕事は、顧客からの依頼を受け、『何のためのシステムか』という前提条件の整理から始まります。同様に小説の目的から世界観、舞台、登場人物などをパワーポイントに整理したんです」(西村さん)
●プロットはエクセルに
メンバーでイメージを共有できるよう、キャラクターは「あのドラマの主役だった若手俳優」などと具体的に設定した。「要件定義」が終わり、物語の方向性が決まると、次は「基本設計」だ。システムの概要を細かく整理する工程になぞらえて、エクセルに書き込んだ物語のプロットは70項目に及ぶ。そして各項目の文字量やキャラクターの登場頻度をマトリックスにまとめ終わるまでに、約4カ月。