アエラの連載企画「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回は株式会社モリタの「ニッポンの課長」を紹介する。
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■株式会社モリタ 生産本部 商品開発部 開発三課 課長 元野等(45)
はしご車を日本で初めて造り、今でははしご車の国内生産で9割以上のシェアを占めるモリタ。兵庫県三田市の生産工場では、さまざまな用途の消防車が年間700台以上製造されている。元野等は、消防車全般に取りつけられている電子制御盤「e-モニタ」の開発担当者だ。手にしているのは2014年に開発した3代目。7インチモニターには、ポンプの回転数やタンクの水の残量、放射量、取りつけたホースの位置などが一度に表示される。情報を一覧できるのが特長だ。
ものを作るのが好きな、おとなしい少年だった。中学に入り、ぽっちゃり体形を変えようとスポーツを始めた。社会人までラグビー部に所属し、ポジションはフォワード。関西大学工学研究科では機械工学を専攻し、将来は機械設計の仕事に就きたいと考えていた。ところがモリタに入り、未知の電子工学を担当することに。その頃、会社はプログラム開発と電子制御に注力しようとしていた。
旧型の消防車の操作スロットルは、車体を貫く軸でつながった構造。消防隊員は車体の両脇で、一方はそれを左回しで、もう一方は右回しで操作しなければならず、少々混乱するのが難点だった。そこで元野は、20歳ほど年上の上司とともに、同じ向きに回せる電子スロットルの開発を命じられる。操作盤の電子化というこの業界で全く初めての試みを、ふたりで担った。
試作品は大幅な方向修正を何度も求められた。その度にがっかりはしたものの「人命にかかわる仕事なので使命感、やりがいがあり、モチベーションは高かった」という。
今は所属課で、制御部門とポンプ部門の10人の部下を統括し、専門外のポンプを学ぶ毎日。かつての上司から学んだ「まずは対話」という姿勢を大切に、常に現場に足を運ぶ。高所恐怖症だが、はしご車のバスケットにも乗って「e-モニタ」の操作性を確認する。
「自分で配線をしないと、本当の使いやすさはわからない。やっぱり配線が好きなんです」
(文中敬称略)
(ライター・西元まり 写真部・東川哲也)
※AERA 2017年3月13号