龍馬は筆まめな人だった。親族や仲間に送った手紙は、現存が確認されているだけで何と約140通。
高知県立坂本龍馬記念館(高知市)の主任学芸員、三浦夏樹さん(44)によれば、
「龍馬の手紙の最大の特徴は、臨機応変さにあります」
龍馬は、相手によって型にはまらない手紙も、型にはまった手紙も書くことができたという。例えば、姉の乙女宛ての手紙には冗談を差しはさんだ。勝海舟に弟子入りして認められたことを乙女に知らせた手紙には、「エヘンエヘン」と砕けた調子で自慢した。一方で、目上の人に対しては丁寧な手紙を送り、木戸孝允に宛てた手紙には一切冗談を交えていないという。
「相手が不快にならないような書き方を常に考えていたのだと思います」
今年1月、龍馬が書いた手紙が見つかったと発表された。龍馬が暗殺される5日前に書いたもので、そこには「新国家」としたためられていた。「新国家」と記された龍馬の手紙の発見は初。龍馬の維新にかける思いが、この3文字から伝わってくる。
先の三浦さんは、はじめてこの手紙を見た時、何より字体の美しさに驚いたと明かす。
「今まで見てきた龍馬のどの手紙よりも達筆でした」
それには理由があった。手紙は、福井藩重臣の中根雪江に宛てたもの。当然、前藩主の松平春嶽が読むことも想定していたと見られるという。
「龍馬の、非常に細かい気配りを感じます」
手紙から見る龍馬も面白い。(編集部・野村昌二)
※AERA 2017年6月12日