沖縄を描きつくす渾身のルポ。地域弾圧の当事者は私たちだ。『国権と島と涙 沖縄の抗う民意を探る』の著者である三山喬さんが、AERAインタビューに答えた。
沖縄によほどの「執着」がなければ、これだけ密度の濃い作品は生まれない。観察者に徹しようとする著者が、「沖縄を深く知れば知るほどに自らの当事者性をギリギリと問い詰められ、心苦しくなっていく」過程に引き寄せられる。著者の三山喬さんは、何に突き動かされたのだろうか。
「沖縄社会の過去と現在を否定されていることへの怒りが渦巻いている、と肌で感じられたのが、ここまで沖縄問題にのめり込む端緒でした」
名優・菅原文太さんの足跡をたどる週刊誌の連載記事の最終回をまとめるため、2015年3月に沖縄の地を踏んだ。県知事選から4カ月後の現地はこう映ったという。
「政権と正面から対峙する“自分たちのリーダー”が現れた高揚感が余韻として漂っていました」
菅原さんは他界するひと月前、現知事の翁長雄志氏が現職に挑む形で立候補した県知事選の決起集会に駆け付けていた。菅原さんが命を削ってまで関わろうとした沖縄の問題に、「自分があまりに無知なことを痛感」した。
その後ろ暗さに背中を押されるように取材を進めるうち、こう考えるようになった。
「沖縄でいったい何が起きているのかがわかっていなかった私の見聞を追体験することで、沖縄が日本に組み込まれて以降の130年来の国内問題が抜き差しならない事態に至っていることを広く共有してもらえるのでは」
描かれているのは「定型」に収まりきらない沖縄の人々のリアルな思考と感情だ。基地反対運動に参加する人たちが到達した「揺るぎない言葉」だけではない。政府との関係悪化や経済的な利害を天秤にかけ、悶々と思い悩む人たちの声にも丁寧に寄り添う。
「沖縄も大変だね、という他人事の話ではありません。私たち本土の国民が選択する政策によって、歴史的な地域弾圧が行われている。私たちはそうした事態を導く同時代の当事者なのです」
沖縄の「抗う民意」の象徴である翁長知事の深層心理に迫るのが本書の核ともいえる。
「翁長知事が政府や本土に対して挑んでいるのは、『歴史戦』なのだと私は感じています。本質は辺野古の一基地の話ではなく、沖縄の過去を忘却・封印しようとする本土の姿勢との闘いのように思えるのです」
試されているのは本土側の「まっとうさ」であることを強く認識させられる。(編集部・渡辺 豪)
※AERA 2017年6月5日号