日本にマンションが誕生して60年以上。今も年に10万戸ずつ増えている。たが一方で、建物と居住者の「二つの老い」や運営管理への無関心などにより、荒廃するマンションが急増している。何が起きているのか。防ぐ方法はあるのか。AERA 5月29日号では「限界マンション」を大特集。
マンションも個性を競う時代だ。築年数もなんのその。入居者の望みを叶える“夢の国”のようなマンションがいま求められている。
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「隣の演奏の音は、よほど聞こうとしないとわからないですね。壁に耳を当ててやっと、ちょっとだけ聞こえますけど」
4月下旬に行われた、ある賃貸マンションの見学会。隣の部屋ではバイオリン奏者が大音量で演奏をしているのに、壁ひとつ隔てた隣室でその音がほとんど聞こえない。参加者の男性(29)は、感心しきりだった。
会場は、越野建設(東京都北区)が手掛ける「音楽マンション」。自宅で楽器演奏を満喫できるコンセプト型のマンションで、18棟が都内で稼働中だ。楽器対応賃貸ブランドとしては国内で最大のシェアがある。
二重サッシや遮音性能の高いドア、換気扇の導入、高密度のコンクリートを採用することで、遮音性の高い物件を実現した。高コストになる完全防音ではなく、適度な遮音性を持たせ、リーズナブルな物件として売り出している。
●演奏可で物件の差別化
「オーナーの方々は、賃貸マンションをいま建てても、数年後に周りがライバルだらけになって負けたらどうしようと心配している。築年数がたつ中で新築の強みが薄れ、空室が出たらと将来が不安。対して『音楽マンション』は音楽愛好家をメインターゲットにし、新築でなくとも魅力を感じてもらえる、競争力のある物件です」
越野建設取締役の吉井政勝さん(48)はこう強調する。建設費は通常のマンション建設に比べ5%ほど高くなるが、機能性の高さから家賃を通常相場より1割ほど高くできる。「賃料が上げられることで、工事費が割高になる部分は4、5年で回収できます」と吉井さん。
賃料が高すぎず、趣味を楽しむためのハードルが低い物件は希少性が高い。なおかつ高い遮音性を実現できるのは、音楽スタジオ、コンサートホールなどの建設に長年携わってきたノウハウがあってこそ。参入障壁が高く、供給過剰になりにくいのも強みだ。