
フランス大統領選を制した中道独立派のエマニュエル・マクロン氏(39)と同じかそれ以上に耳目を集めているのが、年上女房のブリジットさん(64)だ。新大統領の政策には激しく評価が割れるが、25歳の「超・年の差婚」にはおおむね好意的。多様なカップルが同居する恋愛大国フランスでは、他人をとやかく言えない人も多いだろう。
夫妻のなれそめはロマンチックに語られることが多い。2人をスタンダールの小説『赤と黒』に登場する、野心家の美男子ジュリアン・ソレルとレナール夫人に重ねる記者もいた。実際は高校生だったマクロン氏が、高校教師だったブリジットさんを前夫から奪った略奪愛。だが情熱的な愛を貫いた美談とされる。
フランスは風刺文化が根強いため、メディアは面白おかしくふたりを揶揄もするが、それは政治家なら誰もが通る道だ。一方、選挙戦中はマクロン氏のゲイ疑惑が幾度となく浮上した。大手新聞の検証によると、主に右派陣営による悪質な印象操作。例えばフランス人右派系議員はロシア国営メディアで「裕福なゲイのロビー団体が背後にいる。それが全てを意味する」などと語った。当のマクロン氏は報道をきっぱり否定している。
成熟した女性を尊重するフランスでは、ブリジットさんに対する視線もわりに温かい。選挙後のネット調査によると、彼女に良いイメージを持つ人は49%、悪いイメージを持つ人は26%。一挙一動が注目されストレスも多そうだが、日焼けした顔は笑みを絶やさず、大人の余裕を見せる。7人の孫を持つ女性とは思えぬ美脚が自慢で、レザーパンツやミニスカート、ハイヒールがよく似合う。微塵もコンプレックスを感じさせない熟女の星だ。日本では「母のくせに」「妻のくせに」などと非難されそうなものである。
選挙戦は二人三脚で戦った。今後マクロン氏はファーストレディーの位置づけを検討し、ブリジットさんに公的役割を与えることを示唆。オランド前大統領があくまで恋人を日陰の存在としていたのとは対照的だ。しかし国民の68%はこれに反対している。プライベートでおしどり夫婦は良いが、公の場では新大統領に「もう少しブリジットさん離れしてほしい」と願っているようだ。(ライター・林瑞絵)
※AERA 2017年5月22日号