おなじみトクホマーク。取りすぎなければ体に悪いものではないトクホだが、「生活習慣の見直しや食生活の改善を不要と錯覚させる危険性がある」と高橋久仁子群馬大名誉教授は言う(撮影/写真部・小山幸佑)
おなじみトクホマーク。取りすぎなければ体に悪いものではないトクホだが、「生活習慣の見直しや食生活の改善を不要と錯覚させる危険性がある」と高橋久仁子群馬大名誉教授は言う(撮影/写真部・小山幸佑)
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「トクホも機能性表示食品も、誰にでも効くわけではない」と研究者は言う(撮影/写真部・小山幸佑)
「トクホも機能性表示食品も、誰にでも効くわけではない」と研究者は言う(撮影/写真部・小山幸佑)

 雪印メグミルクが2009年に発売した「ガセリ菌SP株ヨーグルト」。2015年に新設された「機能性表示食品」制度を適用し、現在の広告にはガセリ菌SP株により「内臓脂肪を減らす」とうたわれている。根拠の論文は消費者庁HPで公開されている。

 このヨーグルトの「機能性情報」に添付された論文を見ると、1日1個12週間食べ続けると腹部内臓脂肪は平均約6平方センチメートル減り、普通のヨーグルトを食べ続けると逆に少し増えているという結果が記載されている。内臓脂肪は生活習慣病の引き金にもなるもの。確かにありがたい話だ。

●体脂肪率は増えた

 だが不思議なことに、内臓脂肪と皮下脂肪を足した「体脂肪」の率をみると、0.7ポイント、有意(統計学的に誤差の範囲ではないこと)に増えているのだ(普通のヨーグルトだと0.9ポイント増)。すなわちこの商品は「内臓脂肪を減らすが体脂肪は増やす商品」ということにもなる。雪印メグミルクは公式サイトの「お客様センター」というページで「体脂肪率の増加はガセリ菌SP株の摂取が原因ではない」「カルシウムの摂取量が減ることで、体脂肪率が増えたという報告があり、今回の試験で(他の)乳製品の摂取を制限したことが影響したと考えられる」としている。

「ガセリ菌SP株を含むものでも含まないものでも体脂肪率は増加し有意差もないので、商品表示や広告への記載は行っておりません」(同社広報)

●トクホより緩い基準

 病気の予防や健康維持に有効とされる「機能性成分」。この機能性をアピールできる、つまり「食べるとこんないいことがあるよ」と表示できる食品は現在3種類ある。国の審査に合格すれば認められる「特定保健用食品(トクホ)」(1991年開始)、特定の成分について基準量が含まれていれば認められる「栄養機能食品」(2001年開始)、そして機能性表示食品だ。これは国の審査が必要なく、作り手側が根拠を示して形式的に整っていれば認められる。安倍政権下の「成長戦略」の一環として設けられたもので、矢野経済研究所の調べでは市場規模は初年度の446億円から16年度は1483億円(見込み)に跳ね上がっている。

『「健康食品」ウソ・ホント』などの著書がある高橋久仁子・群馬大学名誉教授は、冒頭の案件について、「インターネットを利用しない消費者もいるし、広告の同一紙面に体脂肪率について書かないのは無責任」と憤る。

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