小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。最新刊・小説『ホライズン』(文藝春秋から4月20日発売)。夫の仕事に伴い南半球で暮らす4人の女性たちの孤独と共感を描いた長編
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 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 5月の第2日曜は母の日。『解縛』という本にも書いたのですが、私は母の過干渉で苦しみました。出産を機にそれが自分の生きづらさの根っこにあるとわかり、30代はカウンセリングを受けて過ごしました。

 今は、いい関係です。直接会うことはなく、たまのメールと電話のみ。それが最も穏やかに過ごせる距離です。

 母は今年、傘寿を迎えました。バラのアレンジメントを贈ったらお礼のメールに「早く出稼ぎ生活が終わるといいわね」とありました。返事には「これは期間限定ではありません。私は、この先もずっと働いて家族を養うでしょう」とは書けませんでした。彼女には理解できないでしょうから。親子であっても互いの限界を知ることが、しんどい関係をやり直すには必要なのだと思います。両親に対してはもう、彼らが自らの人生を肯定して穏やかに老いていけるようにと祈るだけです。

 けれど人生には次々とお題が出されます。姉には一方的に絶縁されているし、夫に対しては産後クライシスの恨みがくすぶっています。彼らには、そんなに簡単に、はいわかりましたとは言えません。困惑し、痛みと不安を感じています。人を許すのは、なぜこうも難しいのでしょう。

 最近『ホライズン』という小説を書きました。人生には、誰かに背を向けるときがあります。そのまま地平線の向こうへ進んでいくと、地球1周分かけて、また相手の背中に出会うのですね。そっと肩に手を置くのか、ただ黙って見つめるのかはわからないけれど、そんな形でしか出会えない関係もあるのだと思います。友達も、家族も。

 母の傘寿の祝いに、出たばかりの小説を贈りました。夢がかなったわと母。かつて小説家を夢見た本好きの少女は、70年たっても少女のままです。いつも早とちりで調子外れ。そんな彼女の心細さが、少しわかる気がします。結局は、似た者同士の母娘です。

AERA 2017年5月15日号

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