右から前列に仕事で愛用しているペンタックス*istDLとペンタックスMZ-S。そしてキヤノンIXY DIGITAL800IS、ミノルタTC-1、オリンパスペン。中列がベッサR3A、ライカM2、義父から譲り受けたコンタックスIIIA。後列にオリンパスOM-4Ti、尊敬する岡本太郎が愛用していたことで手に入れたミランダD。仕事と趣味を兼ね、コレクションは約30台あるという
右から前列に仕事で愛用しているペンタックス*istDLとペンタックスMZ-S。そしてキヤノンIXY DIGITAL800IS、ミノルタTC-1、オリンパスペン。中列がベッサR3A、ライカM2、義父から譲り受けたコンタックスIIIA。後列にオリンパスOM-4Ti、尊敬する岡本太郎が愛用していたことで手に入れたミランダD。仕事と趣味を兼ね、コレクションは約30台あるという
落差133メートル、日本一の直瀑(ちょくばく)・那智の大瀧。滝口が見えない霞のなかで、まさに天から降ってくるようにモノトーンで幻想的にとらえられた。ペンタックスMZ-Sで撮影
落差133メートル、日本一の直瀑(ちょくばく)・那智の大瀧。滝口が見えない霞のなかで、まさに天から降ってくるようにモノトーンで幻想的にとらえられた。ペンタックスMZ-Sで撮影
紀伊本線・紀伊勝浦駅前をペンタックスMZ-Sで撮影。地元の名品「那智黒」と対称的にぎとぎとの原色の看板に惹かれたという
紀伊本線・紀伊勝浦駅前をペンタックスMZ-Sで撮影。地元の名品「那智黒」と対称的にぎとぎとの原色の看板に惹かれたという
今年、東京国立博物館で多くの入場者を集めた「若沖と江戸絵画」展の作品のコレクターであるジョー・プライスさんを串本市無量寺で撮影。後ろは長澤蘆雪の「虎図」。ペンタックス*istDLは外光や蛍光灯など様々な光に対応でき、少ない光量でもきれいに描写できるのがメリットだという
今年、東京国立博物館で多くの入場者を集めた「若沖と江戸絵画」展の作品のコレクターであるジョー・プライスさんを串本市無量寺で撮影。後ろは長澤蘆雪の「虎図」。ペンタックス*istDLは外光や蛍光灯など様々な光に対応でき、少ない光量でもきれいに描写できるのがメリットだという

――美術に携わるうえでカメラは重要ですね

 大学時代はゼミの発表で使うスライドを用意するため、よく画集を複写していましたね。助手や先輩に使い方を教わりながら、貸し出し用のニコンFで撮っていました。自分のカメラを持ったのは、大学院の博士過程を修了するころです。アメリカへ美術品の調査旅行に行くことになり、オートフォーカスのミノルタα-7000を購入した。アルバイトで必死に貯めた金でマクロレンズと28~70ミリのズーム、リングストロボなど機材一式をそろえました。調査期間は約1カ月。サンフランシスコからロサンゼルス、デンバー、セントルイス、ワシントン、ニューヨーク、ボストンの美術館をまわりました。事前に先生の紹介状を送っておくと、非展示品を収蔵庫から出してもらえるんです。1日に36枚撮りフィルムを10本くらい使い切りました。当時撮った写真の中には貴重なものもあり、今でもときどき講演で使っています。

 サンフランシスコのアジア美術館で室町時代の画家、式部(輝忠)の屏風(びょうぶ)と対面した時は感激しました。式部の作品だけ、実物を見ないで修士論文を書いていたものですから。ただ撮影は引きがなくて困った。もっとワイドのレンズを持って行かなかったことを悔やみましたね。

――現在の愛機は?

 大学院生時代の教訓もあり、ペンタックスMZ-Sに24~90ミリのズームレンズを装備しています。この4ミリの差が大きいんです。屏風や襖絵(ふすまえ)など広角いっぱいに使う機会が多いので、天と地ほどの差を実感します。望遠側も90ミリだと結構アップで撮れ、落款(らっかん)の接写ができる。しかも内臓ストロボでけられない。屏風も落款も一台ですむ。MZ-Sは、ぼくにとって万能です。ボディーとレンズの重さのバランスもよく、ホールド感がしっくりくるので手持ちでバシャバシャ撮れる。シャキーンというシャッター音と巻上げのフィーリングも好きで、もう10万枚くらい撮影していますよ。

――デジタルカメラは?

 ペンタックス*istDLを発売直後に購入しました。ISO感度が3200まで設定できるので、ノイズを気にしなければ暗い美術館の中でも撮影できます。デジカメはたくさん撮れるので、解説プレートを撮っておくのに便利なんです。とくに海外では、宿に帰ってから拡大してゆっくり読むことができますからね。

 今までの膨大なスライドのストックがあるので、なかなかデジカメには替えられません。展覧会は1日1カ所以上、半日体が空いた日は3カ所くらいまわります。縄文時代から現代美術まで、年間で400カ所ほど足を運んでいると思います。必ずカメラを携行しますが、フィルムとデジタルの2台持っていくことも多く大変です。切り替えて両方使えるハイブリッドのカメラを、だれか考えてくれないかなあ。(笑)

――撮影が難しい美術品は?

 金屏風は露出に苦労します。自分であれこれ補正してみるものの、結局うまくいかない。だからMZ-Sのプログラムにまかせています(笑)。油絵は凹凸があるのでストロボ光が反射して写り込んじゃう。内蔵ストロボとプログラムAEでは難しいですね。デジタルカメラでホワイトバランスを室内照明に合わせて撮れば、なんとか見た目に近い仕上がりになります。

 日本の古い美術品を撮るときは、自然光が当たっているというニュアンスを意識しています。当時は、太陽やろうそくの光で見ていたはずですからね。また屏風だって画集ではフラットな状態で掲載されますが、実際は折り曲げて立てられていますよね。その素材や凹凸などの質感が、人工照明だとうまく伝わらないんです。

――ライカは趣味ですか

 8年前、赤瀬川さんが「ライカ同盟」を文庫化する際、解説を依頼されました。当時、ぼくはまだライカを持っていなかった。それを知りながら先方は依頼して来たんです(笑)。使ったことがなければ原稿は書けないから、思い悩んだ末に有楽町のカメラ店に行きました。ライカ初体験だったので緊張しました。そして、赤瀬川さんから意図的にライカウイルスをもらってしまった(笑)。ぼくにとってカメラを選ぶ基準は仕事で使えるかどうかですが、ライカの1秒のシャッター音を楽しむのも、またいいものですよ。

※このインタビューは「アサヒカメラ 2006年10月増大号」に掲載されたものです