延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京生まれ。TFMエグゼクティブ・プランナー。受賞歴に、小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合(ABU)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、ギャラクシー大賞など(撮影/写真部・小原雄輝)
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京生まれ。TFMエグゼクティブ・プランナー。受賞歴に、小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合(ABU)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、ギャラクシー大賞など(撮影/写真部・小原雄輝)
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 頭山満と松任谷由美が交差する、驚きに満ちた昭和精神史「愛国とノーサイド松任谷家と頭山家」の著者である延江浩が、AERAインタビューに答えた。

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 頁をめくると見開き一杯に集合写真。昭和18年に撮影された頭山家の面々である。中心にいる長老風は頭山満。右翼運動の源流をつくり政界に多大な影響力をもつ大物。満の孫娘が結婚した相手が旧農林省官僚の松任谷健太郎。そしてドラマの幕が上がる。

〈戦前から昭和を貫く精神性の基盤には「頭山家」の信念があり、面白い出来事、場所、人物の近くには決まって「松任谷家」の人々がいた。両家のハイブリッドな軌跡は、時代をこの上なく面白くスリリングにした〉(プロローグから)

 60年安保、全学連の国会突入で衝撃を受けた岸信介首相は自衛隊出動を要請。農林省審議官・松任谷健太郎は赤城宗徳防衛庁長官に「全学連といえども国の若者です。陛下の赤子です。国軍が赤子を撃つなどもってのほか」と説得してとどまらせた。そして1970年、三島由紀夫自決の年、健太郎の甥っ子にあたる松任谷正隆は慶應義塾大学でバンドに打ち込み、6年後に荒井由実と結婚する。

「右か左かではなく自ら名をなして信念を貫き、思想家や表現者として時代に立ち向かい、時代を鋭敏につかみとった人たちの足跡を描きたかった。装丁の黒い円はレコードのドーナツ盤のイメージで、ここに針を置くと昭和という時代の通底音が流れる。真ん中の赤丸が愛国の象徴ですが、昨今言われる愛国とは違います。頭山満を起点にして関係者に会い調べてゆくうちに予想もできなかった面白い輪舞になっていきました」

 全く異なるフェーズの二者(過去と未来、文化と歴史、右と左)が、それこそ国を思うという名の下に「ノーサイド」になっていく。

 大杉栄、伊藤野枝と頭山満の交流、さらに日本赤軍の重信房子の父は血盟団事件に関与、重信家と頭山家とのつながりも驚きだ。三島由紀夫と東大全共闘の激突討論会も立場を超えての交流だった。ミュージシャンとして極を目指した加藤和彦は音楽に絶望して自死。それは時代に絶望した三島の自決にも通底する。

「ネット社会で無記名の論調が蔓延するような今は、三島が予見したのっぺらぼうの社会です。ただし音楽でも本でもあの時代が今に生きている意味では古びない。ノーサイドは終わったあとも終わらないのです」

 遅れてきた世代だからこそ冷静に時代を俯瞰することができたというが、昭和精神史とカウンターカルチャーを見事に結び付けて描き切った。(ライター・田沢竜次)

AERA 2017年5月1-8日合併号